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「とりあえず飯にしよう。夜まだなんだ。」
「俺、手伝い、ますよ。」
「ああ、いいよ。座ってて。」
さて、何を作ろうかと冷蔵庫を開けるが、入っているのは酒とつまみと、食パン。
いかにも一人暮らし感満載の中身に恥ずかしさを覚えた。
「何に、するんですか?」と後ろから聞こえて、そっと冷蔵庫の扉を閉めた。
これからは材料買ってこないとな…。
「すまん。何もないから買ってくるよ。」
「じゃあ、僕も一緒に、行きます。」
早速キョウヘイは玄関へと向かう。
「どこに行くんですか?」と聞きながらスニーカーを履きはじめる彼に、おい。と声をかけた。
キョウヘイが着ているのは、ヨリヒトからもらったTシャツ一枚と黒いパンツ。いくら昼間が暖かいとはいえ、夜は冷える。流石にその格好はな。と思い、「ちょっと待ってろ。」と言ってクローゼットにあるジャケットを渡した。
「Tシャツだけじゃ寒いだろ。それ着てろ。」
「あ、ありがとう、ございます。」
受け取ったジャケットを羽織り、玄関の扉を開けると冷たい風が肌を刺した。
しばらく歩いて大通りに出ると、コンビニや薬局が見えてくる。「何か食べたいものある?」と尋ねると、しばらく考えた後「アキラ、さんの、食べたいもので。」と返ってきた。
俺の食べたいもの、ねえ。
腹を満たせれば何でもいい俺にとっては、なかなか難しい選択。まあでも、迷った時は大体これに落ち着くよな。
じゃあそこな。と指差した店へと向かった。
「ひえー。さぶっ。待ってな、今温め直してくる。」
いそいそと部屋に上がり、袋の中から二つの容器を取り出してレンジにかける。キョウヘイはジャケットをソファにかけて、テーブルの前に座って大人しく待っていた。
さあできたぞ。と俺が作ったわけでもないのだが、湯気が出ている容器をキョウヘイに渡す。
「悪いな。来て早々食べる飯が牛丼で。」
「いえ、俺、牛丼なんて、久しぶりに食べるな…。」
じい、っと器の中を見つめるキョウヘイが、「た、食べても、いいですか。」と遠慮がちに言うものだから、思わず笑ってしまった。
「どうぞ。」
一口目はゆっくり口に運んでいたが、どんどん中身が消えるスピードが早くなる。そういえばこいつ、歳は高校生くらいって言ってたもんな…。育ち盛りの食べっぷりを見るのは何とも心地よく感じた。
次は大盛りでも良さそうだな。
彼に合わせて俺も食べはじめるが、ふと気になることがあって箸を止めた。
「さっきさ、牛丼久しぶりって言ったじゃん。キョウヘイ君は過去の記憶があるの?」
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