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「よし、潜入完了!」
楽しそうにガッツポーズを見せるキョウヘイを横目に、ため息を吐いた。
これバレたら俺、会社クビになるんじゃ…。
罪悪感と後ろめたさがキャパオーバーに達し、肩にかかる重量がひどく重たく感じた。
「アキラさん、そんな落ち込んでないで。大丈夫。俺の保護者でギリ行けるから!」
「どういう意味だ、それ。」
キョウヘイは久しぶりの学校にテンションが上がっているのか、あちこち見てはしゃぎ回る。
「ここは職員室かー。」と言って窓から覗き込んだ時は、肝が冷えた。
「ちょっ…、さっさと見て帰るぞ。」
促すように背中を叩くと、キョウヘイは何かに気づいたような素振りを見せて階段を上がった。
「おい、勝手にどっか行くんじゃねえ。」
駆け上がるキョウヘイを追いかけると「こっちだよー。」と言って、どんどん登っていく。
最初は「待て!」と言って追いかけていたものの、2階を超えたあたりで息が上がってきた。まさか、こんな形で年齢を感じることになるとは。ぱんぱんになった太腿を必死に持ち上げながら、何とか階段を登りきる。
「アキラさん遅いよー。」
「ま、って。休憩……。」
ぜえはあと大きく息を吐きながら呼吸を整える。
前屈みになって胸を上下させる俺を見て、「大丈夫?」とキョウヘイが声をかけた。
息をあげずにケロッとしているキョウヘイを見て、やっぱ10代の体力って凄えな。と感心したと同時に、抗えない体力の衰えを突きつけられた。
「ねえ見て!ここから駅が見えるよ!」
そうキョウヘイが指を指した先には、高層ビルが建ち並ぶ大きな駅が見える。
ああそうだ。4階の踊り場の窓は一際大きくて、すごく景色が良かったんだ。夕方には西日が差し込んで、部活が終わった頃には、ビル周辺の建物の明かりが色とりどりに輝いていて綺麗だったなあ。と当時の様子を思い浮かべた。
学生の時は当たり前の事だったから、次第に気に留めなくなっていたが、なかなか良い場所じゃないか。
「そうだな。でもここ、夕方になるともっと綺麗だぞ。」と言うと「ほんと!じゃあもうちょっと待とうよ!」とキョウヘイが窓に近寄る。
「……っあ。」
ポツリ、とキョウヘイが小さく声を漏らした。
聞き逃した俺は「何か言ったか?」と尋ねると、キョウヘイは目を伏せて窓の下を覗く。
「俺、」
「……?」
「俺、ここで死んだんだ。」
そう言ったキョウヘイの顔は、酷く歪んでいた。
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