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. ある夏の日
それは夏休みの出来事だった。
その日はアキラとヨリヒトと、高校の近くにあるショッピングセンターのフードコートで、休み明けにあるテスト勉強を一緒にしていた。
教科書とノートがテーブルを埋め尽くし、三人は黙々と目の前の問題に集中していた。話すこともすっかり忘れてしまい、注文したドリンクが氷で薄まる程時間が経った時、ふいにアキラが顔を上げた。
「なあ、ここの問題ってこの式であってる?」
「やだなあ。そんな問題も分かんないの?」
「なっ…悪いかよ。」
アキラは問題の部分を指さした手をさっ、と引っ込めた。
それを見ていたヨリヒトは、顎を上げて見下すような視線を送ると、触発されたアキラは手に持っているシャーペンをぐっと握りしめた。
「そこの問題はね、こっちの式を使うんだよ。」
俺が教科書を指すと「お、さんきゅな。」と言って再びノートに向かっていった。するとすぐに「そういえば。」と顔を上げてシャーペンに顎を置きはじめる。
「キョウヘイ、三年になってから急に成績良くなったよな。」
「確かにー。どこ受けるの?」
アキラの一言で二人の視線が俺に集まり思わず後ずさる。「そんな事ないよ!」と両手を身体の前で振ると、「謙遜はいいから!」とテーブルを挟んだヨリヒトが詰め寄って聞いてきた。
「うっ…、まだ決めたわけじゃないけど、K大にしようかなって…。」
「へへ、前回の模試の結果じゃC判定だけどね。」と付け足すと、二人は顔を見合わせて「すごいじゃん!」と声をあげた。
「一年の時は万年赤点だったキョウヘイが…お前、頑張ったんだな。」
「ほんとだよ〜。俺、キョウヘイの成長に涙出ちゃう。」
「一つも涙出てねえけどな。」とアキラがツッコむと、「汚れた心の人には見えないんです〜。」と相変わらず逆撫でするような言葉を返す。
「K大だったら、俺と進路一緒だな。」
アキラがそう言うとヨリヒトが驚いた表情を見せた。「え、じゃあ俺だけ仲間はずれ?つまんなーい。」と溢して、ずり下がる様に背もたれにもたれかかった。
「え〜二人とも同じとこなら俺も変えよっかなあ。」
「ヨリヒトはどこ受けるの?」
「やめとけ。馬鹿にされるぞ。」
「馬鹿になんてしないよ!まあ俺はT大志望だけどさ!」
ほれみろ。と呆れた顔で俺を見た。
俺が苦笑いを溢すと、ヨリヒトが「でも近いから大学生になっても会えるねー。」笑いながら、結露のついた紙コップのストローに口をつけた。
「お前っ、それ俺のだよ!」
「え?ああごめん。そんな怒んなくてもいいじゃーん。」
ヨリヒトが口を尖らせると、そのままアキラのジュースを全部飲み干してしまった。
「あ!」とアキラがテーブルを揺らすと、ヨリヒトが左手で握り拳を作って自身の頭にこつん。とぶつけ、舌の先をちろ、と覗かせた。
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