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「もう、冗談に乗ってくれたっていいのに。」 片方の頬を膨らませて怒る姿に俺は苦笑いしか返すことが出来なかった。 するとヨリヒトは「そういえば。」と前置きして俺に尋ねた。 「どーお?叔父さん、許してくれそう?」 「ううん。昨日も話してみたけど、許してくれる気配はないなあ。」 ヨリヒトは椅子の背もたれに頬杖をついて「そうかあ。」と項垂れる。 「せっかくここまで頑張ってきたんだから、進学させてほしいよね。」 そう言うとヨリヒトは悲しそうな表情で、俺の進路希望表を見つめた。 叔父さんに引き取ってもらうことになった時、大学ではなく就職しなさい。と告げられた。 衝撃の一言だったが、もちろん俺は志望校も明確に決めていたことから、叔父さんの言葉に反発した。 しかし、在学中は面倒を見るが卒業後は自分の力で生活をしろ。の一点張りで話すら進めさせてもらえない状況だ。 それからは進路の話題を振った瞬間、叔父さんは席を外すようになってしまった。 「でもさ、正直今の時期から就職先決めるのなんて無理じゃない?」 季節は冬に差し掛かろうとしている。 就職希望の人たちは既に内定をもらっている状態だった。 「そうなんだよ〜。でもね聞いて。この前の模試でA判定もらえたんだ。それで家の事情もあって、先生が特待生枠を用意してくれてさ、だから次の面談までにもう一度話をしようかなって。」 ファイルから先生が用意してくれたプリントをヨリヒトに見せた。 せっかくここまで頑張ったんだ。このチャンスを俺は絶対に逃したくなかった。 「やったじゃん!これで叔父さんも言うことなしでしょ!」 ぴょんぴょんとヨリヒトが跳ね回ると、他の生徒が俺たちの机に視線を向けた。近くで見ていた子達が、何かいいことあったの?と集まってきたが、この時期のクラスメイトに特待生の事を話しずらく、それとなく濁すと丁度いいタイミングでアキラが戻ってきてくれた。 助けを求めて目配せをすると、アキラは眉間に皺を寄せて再び教室を出て行ってしまった。

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