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「特待生受験を取り辞めたいって、正気か?伊野。」 「はい。」 担任の先生は怪訝な表情で俺を見つめた。 「何があったんだ。あんなに頑張ってたじゃないか。」 「よく考えてみたら俺のやりたい事に繋がらないな。って思って。すみません、もらった書類も捨てちゃいました。」 飄々と言う俺に担任は目を丸くして、「おいおいまじか…。」と言って頭を抱えた。 それもそのはず。先生達は特待生枠での手続きを大学と一緒に進めていた。あとはプリントに親からの判子を押してもらい、持ってくるだけだったのだ。 「考え直すってことはないのか?」 「ありません。」 「そうか…。伊野が断るなら、この枠は他の生徒に充てることになる。でも俺は伊野だから推薦したんだよ。せめて辞退する理由を教えてくれないか?」 「さっき言った通り、俺のやりたい事はその大学では叶わないからです。」 「伊野のやりたい事ってなんだ?」 「それは……。」 問い詰められて返答に困った。 アキラと同じ大学に行きたくて必死に勉強する事が、自然と俺の中での目標となっていたのだ。 その目標を挫かれた今、俺のやりたい事って何なのだろう。 「あのな、やりたい事が無いからとりあえず進学って考え方はあまり好きじゃないが、やりたい事も無いのに進学も就職もしないのはもっとダメだ。」 「……。」 「伊野の中でつっかえる何かがあるのかもしれない。でも、今の考えのままなら俺はこの枠から伊野を外さない。 少し時間をやるから意志を固めてこい。もちろん、相談は乗るから。」 そう言って担任は俺の肩を叩く。 この時の俺には、昨晩あった叔父との出来事を話すという選択肢が頭の中になかったのだ。 今の自分には何も残っていない。その事実が俺の心を覆い尽くして、深い闇に放り投げ出された気分だった。

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