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. 壊れる
「そんなに泣くなよ。風邪ひくから、早く電車に乗ろう。」
「……うん。」
丁度いいタイミングで到着した電車へ、アキラに背中を撫でられながら乗車した。
手のひらを当てられている場所から感じる体温は、俺の鼓動を大きくさせると同時に、温かい気持ちにさせてくれた。
泣き続けた瞼は熱を持って重く、今にも閉じてしまいそうだ。かく、と首を落とすと、アキラが肩に俺の頭を乗せた。再び高鳴り出す鼓動が伝わらないよう必死に抑えながら、俺はアキラに身体を預けた。
「じゃあまた明日。」
「おう。明日までにその目なんとかして来いよ。」
目元を指差しながら笑うアキラに手を振って別れた。
何度もアキラと一緒に帰ってきたが、今日だけは特別だ。
悟られないよう抑え込んできたアキラへの感情は溢れ出し、叔父の家へ向ける足取りも軽くさせてくれた。
就職に決めた。それだけ伝えて今日は帰ろう。
目の前の角を曲がると、反対側から仕事帰りと思われる叔父が歩いてくるのが見えた。足早に駆け寄ると、俺に気づいた叔父は形相を変えて近づいてくる。
声をかけようと口を開いた瞬間、頬に鋭い痛みが走った。
「……っい……。」
何が起こったのか分からず、熱を帯びる頬に手を当てると口の中が切れたのか、じわりと血が滲むのを感じた。
すぐに目線を叔父に向けると、今まで見たことの無い表情で俺の胸ぐらを掴んだ。
「お前はどれだけ恥を晒すつもりだ。」
「……え、」
叔父はひどく激昂し、目を見開く。
言葉を失った俺は次の言葉を待つしか分からず、硬直した。
「あんな人目につくところで男同士でくっついて気持ち悪いんだよ、お前はそんなに俺達に嫌がらせがしたいのか!」
「………!」
何に怒っているのかを理解し、叔父から目を逸らした。
「それは……、」
「生活費までせびって大学に行かせろと我儘を言った上にホモだと?いい加減にしろ、後ろ指差されるのは俺なんだぞ!」
鳴り止まない怒号に心臓がうるさいほど鳴り響く。
駅の事、叔父さんに見られたんだ。
冷や汗が止まらず、弁解しようとする口元が震える。
違う、アキラは友達だよ
距離が近かったのはじゃれてただけ
そんな事より、就職する事に決めたんだ。だからもう心配いらないよ
言え、そう言え!
心が叫ぶが身体は言うことを聞かない。
その間も止まらない叔父の言葉は、確実に俺の胸を刺した。何とか抵抗する為、胸ぐらを掴む手を解こうとすると、横腹に強い衝撃が当たった。
「……がっ…。」
殴られた所に鈍痛が走り、俺は地面に蹲る。
早くなる鼓動に目を見開くと、抑え込んでる腹に向けて叔父は蹴りを入れてきた。
「気持ち悪いんだよお前!」
「やめっ……、や、めて………。」
「消えろ!恥さらし!二度と顔を見せるな!」
「ご、ごめ……、なさっ………。」
止まらない蹴りを身体を丸めて耐えるが、蹴られる衝撃で顔がアスファルトで削れ、全身に味わったことの無い激痛を感じた。
お願い。もうやめて。ごめんなさい。
喉元まで出てきた言葉は、声になること無く飲み込むことしか出来なかった。
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