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しばらくして叔父の暴力が止み、俺は上手く力が入らない上体をゆっくり起こした。 見上げた先にいた叔父は、酷く冷たい視線を俺に向けて握りしめた拳を震わせていた。 「……叔父、さん…。俺………。」 血の味が広がる口を必死に動かして話しかけた。しかし叔父は俺の髪の毛を掴み「お前さあ、」と遮る。 「うちの家族が笑い者にされたらどう責任とってくれるわけ?」 「………あ、……。」 「何とか言えよ!」 髪を掴んだまま俺の顎に叔父の膝が思い切り打ち付けられ、口元から血が滴り落ちる。 膝蹴りされた衝撃で朦朧とする意識をかろうじて保ち、再び叔父を見上げると「気色悪い顔を見せるな。」ともう一度膝蹴りを受ける。 「うっ……。ごめ、……なさ、い……。」 「………ね。」 「……え、」 「……死ねって言ってんだよ、このホモ。」 「………!」 心が壊れる音がした。 容赦のない叔父の言葉は、俺の心臓を握り潰した。 違うんだ。今日はそんな事を言われる為に来たわけじゃないのに。 就職することにしたよ。たったそれだけ、伝えたかっただけなのに。 言葉が出てこない代わりに大粒の涙が溢れ出す。 嗚咽を漏らしながら口元の血を拭うと、叔父は掴んでいた髪の毛を離し、地面に落ちていた俺のリュックを顔面に向けて投げるつけると「帰れ。」とだけ残して勢いよく玄関の戸を閉めた。 「………っつぅ……。」 自分の身体を庇うのに必死で麻痺していた痛覚は、次第に鋭く痛み始め、立ち上がるのも困難な程になっていく。加えて顎に与えられた衝撃のせいで上手く頭が働かない。 視界が二重になっていることにも違和感を感じず、荷物を引きずって塀伝いに歩いていく。 「うっ……、うぅ……。」 先程叔父に言われた言葉が反芻する。 涙を拭く余裕すらない俺は、地面に落ちる二色の雫をぼやける視界で見つめた。

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