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. ヨリヒトの胸臆 -杞憂-
顔を覆い尽くす程のガーゼを見た時、その傷が叔父さんから受けたものだとすぐに分かった。
加えて虚な瞳をしていたから何かあった事を悟り、近寄ったら思った以上の力で払い除けられた。
初めて受けた他人からの拒絶。
いつも無理にでも笑っているキョウヘイだからこそ、言葉選びには慎重になってしまった。
思考を張り巡らせて、やっと絞り出した言葉が「俺はキョウヘイの味方だよ。」だった。
その傷、叔父さんでしょ?
昨日何があったの?
他にもかけたい言葉は山ほどあった。
しかし憔悴しきった彼を見ると、思い浮かんだ言葉は消えていき、ただ肩を強く掴むことしか出来なかった。
キョウヘイ、本当に大丈夫か。
そう訴える様に瞳を見つめるがそこに光はなく、ただ反射した俺の顔が映るだけだった。
今はまだ聞くべきではない。そう直感で感じた俺はキョウヘイを保健室に連れて行った。
「今日はここにいな。傷もくまもひどいから休んだ方がいいよ。」
保健室の先生も事情に説明すると、奥のベッドへと案内された。
「また休み時間に来てもいい?」
「……うん。」
小さく返事をしてくれたキョウヘイに微笑んで、カーテンを閉めようとした時「ねえ、」と呼び止められた。
「今まで、ありがとね。」
「……え?」
蚊の鳴くような声で発せられた声。
聞き間違いでなければ今、なんて……
「まって、キョウヘ……」
「はいはい、チャイム鳴るから戻りなさい。また休み時間に来てね。」
「え、ちょっと先生…!」
腕を掴まれてベッドから離される。
カーテンが閉められる瞬間に見えたキョウヘイの目は、潤んでいた。
チャイムが鳴り始め、先生は強引に保健室から追い出すと「ちゃんと面倒見とくから大丈夫よ。」と言って扉に手をかけた。
「先生…!お願いだから俺たちが来るまで、キョウヘイを外に出さないであげて。」
「心配しなくても、あの怪我じゃ他の生徒から注目されるだろうから、担任と相談するわ。恐らく今日は帰すか、保健室で課題よ。」
「分かったら早く教室行きなさい。」と俺の肩を軽く押して促した。
俺の中に現れた嫌な予感は、ふつふつと大きくなっていく。今にも壊れそうなキョウヘイを見ていると、胸が締めつけられた。
思い過ごしならそれでいい。
今日一日は側にいよう。そう決めて俺は教室へ足を向けた。
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