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. 迫る足音
教室に入るとヨリヒトとキョウヘイの姿はなかった。
辺りを見渡すが今日は来ていないらしい。
あんな雨だったから、やっぱり体調を崩したのだろうか。
昨日の出来事を思いだして、俺は静かに胸を躍らせた。
先日ヨリヒトにキョウヘイが好きな事がバレた時は、この世の終わりと錯覚する程落ち込んだ。
キョウヘイと話す度にニヤニヤする顔が思い浮かんでは、いつかバラされてしまうのではないかと、終始ひやひやしたものだ。
まあ、ヨリヒトのからかいがあって成功したのも事実だが…。腑に落ちない部分もあるが成功には違いない…!
俺は心の中でガッツポーズを決めた。
しかし昨日の事をわざわざヨリヒトに言うべきだろうか。悶々と考えていると、丁度悩みの種となっていた人物が駆け込んで来た。
「……遅刻か?」
「んなわけ。」
そう言うヨリヒトは息が上がっている。絶対に遅刻だと確信した俺はにやにやと口元を緩ませた。
「珍しいじゃねえか、ギリギリなんて。」
「まあね。」
らしくない態度のヨリヒトの返事に調子が狂う。
なんでこいつこんなに機嫌悪いんだよ。
「キョウヘイ今日来てないみたいだぞ。」
「保健室にいるって。怪我したっぽい。」
「怪我?」
目を合わせずに淡々と話すヨリヒトは首を縦に振った。
三年こいつと一緒にいたが、こんなにテンションの低いヨリヒトは初めてだ。「ふーん」と素っ気なく返事をすると、ヨリヒトは遠慮がちに口を開いた。
「…後で、一緒に様子見に行かない?」
「おー。」
そんなに酷い怪我なのか。
俺の様子を伺いながら尋ねるヨリヒトの提案を、授業の片耳で受け入れた。
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