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「伊野くん、カーテン開けるよ?」 ヨリヒトを見送った後、先生はカーテン越しに声をかけた。 「もう他に生徒はいないからこっち座りな。」 ぽんぽん、とストーブの前にある椅子を叩く。 俺はおぼつかない足取りで促された席に座った。 「その怪我の理由、聞いてもいい?」 先生は棚から消毒液を取り出しながら尋ねた。 「え、と……。……………。」 言葉に詰まっていると用具を一色揃えた先生が俺の目の前に座り、ふう、と大きなため息をついた。 「言いづらい理由なら無理に話さなくていいよ。でも傷口だけ見せてもらっていい?血が滲み出てる。何も消毒しずにガーゼ貼ったでしょ。」 「ちょっとそれ剥がして。」と言われた通りにガーゼを剥がそうとしたが、固まった血液は傷口とガーゼに張り付いてなかなか取れなかった。 「あーほらね、ちょっとかして。」 先生は手際良くガーゼを剥がして傷口を消毒していく。 「こーゆー傷はね、ガーゼじゃなくて傷パッドにしないと剥がす時痛いんだよー。」 「……はい。」 「ここじゃ薬は出せないから消毒だけだけど、家帰ったら 塗り薬ちゃんと塗るんだよ。」 「………。」 「ん?聞いてる?あ、あとかさぶたになるまでは傷パッド貼って寝てね。布団の繊維とか雑菌入っちゃうから。家に傷パッドある?」 「ない、です……。」 「じゃあこんだけ持っていきな。ここの学校、怪我する子少ないから備品有り余ってるのよ。これツルツルの方を傷口に当てて養生テープで固定してね。」 そう言って五枚程の傷パッドをポリチャックに入れて俺に持たせてくれた。 消毒液特有のツンとした匂いが立ち込め、ツンとする鼻の奥を啜る。すると先生が真剣な眼差しで俺の瞳を見つめた。 「伊野くんに何があったか私は分からないけど、さっきの子、凄く心配してくれてたじゃない?あーいう子は大切にしないとダメよ。」 「は、い………。」 ストーブに当たっているにもかかわらず、未だ冷たい指先をぐっと握りしめると、それを覆うように先生が握りしめる。 は、として目線を上げると「さて、担任に話してくる。」と言って扉へ向かっていった。 「私ちょっとここ離れるけどすぐ戻ってくるから。それまで安静にしてなさいね。」 そう言って閉まる扉を見つめていた。

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