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13 きっとそれは必然に……
どのくらい体を交えていたのかわからない。
最初は恐る恐るだった楓真も最後には欲の赴くままに浩成を抱いてしまい、ことが済み茫然とする。何もかも初めてだと感じていたのに、最中は浩成の体に夢中になってしまい気遣う余裕など皆無だった。
「……ごめん。体、辛かったよね?」
楓真の腕の中に抱かれ顔をグシャグシャにして泣いている浩成に、どうしたらいいのかわからない。あんなに善がり、縋るようにして求めていた浩成に安心し、己の欲をぶつけてしまった。挿入される側は体の負担だって大きいはず。それなのに無我夢中で自分勝手に快楽を貪ってしまったことに、楓真はただただ謝ることしかできなかった。
「ごめんな、俺、気持ち良すぎて抑えられなかった。浩成君、ごめん、泣かないで……」
「………… 」
言いながら「最低だな」と自己嫌悪に陥る。愛おしく大切に思っていたはずなのに、浩成を泣かせてしまうほど酷い扱いをしてしまったのだと、楓真も泣きたくなった。やんわりと抱きしめ浩成の背中を摩り、止めどなく頬を濡らしている涙をキスで拭う。愛おしさと申し訳なさに心が押しつぶされそうになりながら楓真は浩成の名を呼んだ。
「……違うんだ」
「ん?」
楓真の胸に顔を押し付けるように埋め、浩成が何かを呟く。「違う」と言いながら顔をあげた浩成は笑顔で続ける。
「楓真……嫌じゃなかった? 俺の中、気持ちよかった?」
「へ? よかったに決まってるじゃん。いや……だってわかるだろ? 俺、恥ずかしいくらい我を忘れて浩成君のこと抱いたじゃん。嫌なわけないでしょ」
楓真の言葉を聞きながら、涙をこぼしながらも笑顔でウンウンと頷いている浩成を見て少し安心する。きっと辛くて泣いていたんじゃない。心配することはなかったのだと楓真は察し、もう一度浩成のことをギュッと抱きしめた。
「どうしたの? 泣いている理由、ちゃんと俺に教えてよ」
「えっと……ちゃんと楓真に抱いてもらえたことが……嬉しくて」
幸せすぎて嬉しくて、だから涙が止まらないのだと照れ臭そうに笑う浩成に楓真もつられて笑顔になる。
「そっか、俺も嬉しいよ。俺こそ浩成君のこと、満足させることできたかな?」
「うん、気絶するかと思うくらい、凄くよかった……楓真、ありがとう」
最中のことを思い返せばそんなの聞くまでもなくわかることだった。でもこうやって口に出して言われると、余計に嬉しさが増し幸せな気持ちになった。
たとえ記憶が戻らなくても、また好きにさせてみせるから──
そう言っていた浩成の気持ちが少しだけ理解できた。記憶が戻った自覚は無いけど、現に今、自分の腕の中にいる浩成が堪らなく愛おしい。そう思えるのはきっと自分の奥底にかつての記憶の欠片が存在しているから。そう、自分が惚れていたであろうこの男と一緒に過ごしていれば、また恋心が生まれてもおかしくはないのだと楓真は納得した。
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