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14 夢

 一度体を交えてしまえば楓真と浩成の関係は「恋人」以外のなにものでもなく、ちゃんと記憶が戻っていないことなど楓真にとってはもう気にするようなことではなくなっていた。日々溢れ出るような多幸感に、浩成がいれば全てうまくいくのだとそう信じて疑わなかった。 「楓真……楓真? 大丈夫か?」 「あ……あぁ、浩成……君」  二人で一緒に眠るようになり数日が過ぎ、なぜだか楓真は夢にうなされる事が多くなった。目覚めている間は心穏やかに、何も不安に思うこともない。それなのに浩成と二人で眠りにつけば、決まって嫌な夢にうなされる。こうやって浩成に起こされるとすぐに夢の内容など忘れてしまっているのだけれど、それが「悪夢」だということは、じわりとかいた汗でわかっていた。 「また、夢でも見た?」 「う、うん。でも浩成君の顔見たらホッとする……大丈夫」  思わず口にした通り、楓真は浩成の顔を見て安心していた。目の前にいる浩成、そしてこの場所は安全なのだと教えてくれる。不安を顔に出せば浩成は何も言わずに抱きしめてくれた。ドキドキする自分の胸の鼓動と一緒に感じる浩成の小さな鼓動。それを聞いているうちにまた、頭の中に靄がかかるように睡魔に襲われ、楓真は自然に瞼を閉じる。  浩成が心配そうに楓真を覗き込み、額にキスを落とす。小さな子をあやすようにゆっくりと頭を撫で、何も言わずその腕で抱きしめた。同じような事が何度あっても、浩成は楓真にどんな夢なのか一度も聞く事はない。気にしている風にも見えなくもないけど、楓真が嫌なことを思い出さないために気を遣い聞かないでいてくれているのだと思うとありがたかった。楓真は起こしてしまったことを詫び、浩成の腕に抱かれ再び眠りにつく。    そんな寝不足の日々が数日続いた──  朝、仕事に出る浩成を玄関で見送ると、楓真はいつものように部屋の掃除と洗濯に取り掛かる。もうこの生活も慣れたもので、コソコソとひとり記憶の断片を探すようなこともなくなっていた。  今はもう使われていない、浩成が寝床に使っていた部屋。以前に一度ドアを開け、部屋の中を少しだけ見た事があった。けれどもちょっとした物置になっていると言っていたこの部屋を改めてしっかりと見るのは初めてだった。たまにはここも掃除をした方がいいかと思い、楓真は何も気にせずに部屋に入った。  きちんと畳まれた一組の布団。壁際には洋服のかかっているハンガ—ラック。物置とは言っても、机や本棚のあるいたって普通の部屋だった。  楓真はこの部屋にちゃんと入ったのは初めてだった。浩成を恋人だとまだ認識していない頃、この家で一人になれば部屋中隅々まで調べてまわり記憶を取り戻そうとしていたはずなのに、なぜこの部屋には入った事がなかったのか少し不思議に思った。 「これ、物置……じゃないよな。きれいにしてるじゃん」  締め切ったカ—テンを開け光を取り込むと、外の天気の良さも相まって一気に部屋が明るくなった。こんなに日が差し込んで明るいのに物置だなんてもったいないな……と楓真はまわりを見渡した。

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