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18 違う人間

 いつもの道──  買物に行くときに必ず通る道。普段は献立を考えながらぼんやりと歩くだけだった。でも今日の目的のメインは買い物ではない。馴染みのスーパーを通り越して楓真は駅に向かっていた。  平日の昼間で人もそれほど多くなく、電車の中は空いている。ドア近くのシートに座り、楓真は窓の外を振り返る。流れていく景色を眺めながら、少しだけ浮き浮きした気分になった。  つい最近浩成とデートをしたコースを辿る。記憶にないはずの街並みに、懐かしい気持ちが少し混じっているのを感じ、不思議に思った。このままあてもなく歩いていたら、もしかしたら自分を知った人に出会うかもしれない。その時自分はどう反応したらいいのか、また千晃の時みたいにフワッと記憶が戻るのだろうか。一人歩きながらそんなことばかり考えていたら少し怖くなってしまった。 「いらっしゃいませ……って、こんにちは! 今日はお一人ですか?」  楓真が行き着いた先は、以前浩成と一緒に来たセレクトショップだった。  何となく不安になってしまい、つい知った人間のいるところに足が向いてしまった。知った人間、とは言っても楓真にとってはあの時会ったきりの単なる店員でしかない。それでも相手にとってみたら楓真は馴染みの客なので、何も疑問もなく顔を見るなり親しげに声をかけてきた。 「あ、それ、やっぱお似合いっすね。いつもと雰囲気違うけど、これはこれでまたイケてる。ほんとイケメンは何着ても似合いますよね、羨ましい」 「そう? ありがと……」  社交辞令も交え気さくに話しかけてくる店員に、楓真も愛想笑いを浮かべ適当に返事をしながら商品のかかっているハンガーに手を伸ばす。今日はあの時浩成にプレゼントしてもらった服を着ていた。誕生日プレゼントだと言って、ほとんど浩成の見立てで決めたようなものだ。楓真を見て褒めちぎる店員の言葉に少し違和感を覚え顔を上げた。 「なあ、いつもと雰囲気違うって、俺どんな雰囲気だったの? この服、俺らしくない?」 「え? いや、そうじゃなくて、とても似合ってますよ。大丈夫ですって。ほら、楓真君と一緒にいた方が選んでたから……たまには冒険もしてみるもんですよね」 「冒険……?」 「そ、たまには明るい色もね、いいもんでしょ?」  よく分からなくなり楓真は首を傾げる。店員が言うには、この店によくきていた頃は、楓真は決まったブランドの服しか買ったことがなかったらしい。それにいくら流行りのカラーを勧めても、一貫して黒いものや地味めな色合いのものを選んでいたのだと教えてくれた。あの時少し感じた違和感の理由がわかったような気がした。 「今日はどんなのをお探しで?」 「あ、今日はちょっと見に来ただけで……」  この馴れ馴れしい店員が自分の名前を知っていたことにも戸惑いながら、楓真は自分が持っている服を頭に思い浮かべる。先ほど言われた黒い服、地味めな色合いの服はそれほど持っていない。どちらかといえば浩成と同じような明るい色合いの服を合わせて着ていることが多い。  聞かされた人物像が何となく自分と結びつかなくて、違う人の話に聞こえた。

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