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19 苛立ち

「どうしたの? 今日はなんだか積極的だね」 「いいから……風呂できてるし、入ってきて」  浩成が帰宅するなり、楓真は待ち構えていたかのように抱きつきキスを強請った。「熱烈歓迎、嬉しいな」とニヤけながらバスルームに向かう浩成を見送り、楓真は先に寝室に入りベッドに腰掛けた。  小さな綻びのような、何とも言えない僅かな違和感に、どうしようもなく気持ちが焦る──  今日行ったセレクトショップの店員は、あの時一緒にいた浩成のことを楓真の兄弟か何かだと思っていたらしい。親しげに話していたから、てっきり浩成と一緒に何度も訪れている店だと思っていた。浩成もそう言っていたはず。でも、あの店員の話しぶりから、顔見知りなのは楓真だけで、浩成はそうではないのがわかった。  よく一緒に歩いた道、一緒に行った店……そんな話をしながら二人でのんびりと歩いたのは記憶に新しい。でもそれは違っていたのかもしれない。どこまでが事実で、どこまでが事実ではないのだろう。楓真は自分の記憶がまた不安定になってしまったのかも、と怖くなった。  違和感のある私服。似合うと言って買ってくれた服。どれも嫌ではないけど何となくしっくりこなかった。もしかしたら、ここに来てずっと着ていたこれらの服も全て、自分のものではなく浩成のものなのかもしれない。そう思ったら「なぜ?」としか言いようがなく、どうしても嘘をつかれているような気がしてならなかった。 「お待たせ……楓真」  遠慮がちにドアの向こうで声がする。そっとドアが開き、Tシャツと下着姿の浩成が顔を出した。 「早く来いよ」 「うん……」  楓真の前に立つ浩成を強引に抱き寄せると、ベッドに押し倒す。普段と様子の違う楓真に、明らかに動揺した顔をする。そして何かを誤魔化すようにキスをした。 「今日はすぐに抱きたい気分だったの? 俺、腹減ってんだけどな」 「うるさいな……嫌?」 「ううん、いいよ。強引な楓真も好き。早く抱いて……」  何か言いたげな顔をしているくせに、軽口を叩くだけで何も言ってこない浩成に楓真は苛つく。かといって何かを聞きたいわけでもなかった。分からないからこそ、本当のことを聞くのが怖い。今、幸せなこの生活を壊してしまうようなことにでもなったら、と思うと、何も言えなかった。 「あっ……んっ! ん……」 「………… 」  浩成をベッドに縫い付けるように強く押さえつける。楓真は乱暴にTシャツを捲り上げ、露わになった胸元に齧り付いた。どうしても苛々がおさまらない。グチャグチャする感情とは裏腹に、興奮し熱く滾った下腹部を浩成に押し付ける。浩成は抵抗することもなく、楓真を受け入れるべく自然と足を開き腰に手を回した。 「凄いね……早くそれ、挿れて欲しいな……」 「ならケツ見せて。解すから」  浩成は楓真に言われるがまま下着を脱ぎ、恥ずかしそうに尻を向ける。楓真は勿体ぶるように浩成の後孔の周りを緩々と撫でた。まだローションを使ってないのに、そこは楓真を誘うようにいやらしく濡れている。遠慮なく指を立てると難なく受け入れ、ひくひくと纏わりついた。 「ねえ? もしかしてさ、自分で少し解した?」 「だって、楓真すぐヤりたそうだったし……」 「うん、じゃあもういいよな?」 「あ……」    楓真は返事を待たずに腰を捕まえると、一気に奥まで挿入させた。  強引な律動にも堪らないといった切ない顔をした浩成が「もっと……」と強請る。誰が悪いわけでもないのに、罪悪感が込み上げてくる。愛おしそうに顔を寄せ「愛してる」と囁く浩成の目を、楓真は見ることができなかった。

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