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34 痛み

 時折言われる楓真自身のこと──    それはどれも自分ではない気がしてならない。この場合の「面倒臭いこと」とは一体何を指すのだろうか。未だ分からずにいる、どうしようもなく認めたくない本当の記憶に楓真は恐怖を覚えた。 「あっ、ちょっ……待って、やっ……痛っ」  千晃は碌な愛撫も無しに、ただただ強引に楓真の体を開き両足を担ぎ上げた。声を上げる間もなく一気に後孔を貫かれ、痛みと迫り上がる圧迫感に息が詰まる。「嫌だ」と懇願すれば、すぐに千晃の平手が飛んでくる。どうしたものかと混乱する頭で、楓真は痛みからなんとか逃れられないかと体位を変え、なるべく千晃の気分を害さないよう体を許した。  千晃は最中楓真の頬を平手打ちしたり、掌で口を塞いだ。そのまま首元も圧迫され、脇腹も何度も殴られた。それらの行為は本気ではないと信じたかったけど、正直殺されるかもと思い、恐怖で抵抗できなかった。 「楓真うるさい。なんか萎えた……」  そう呟いた千晃はさっさと着替えを済ませ、途中でどこかへ行ってしまった。こんな状態の恋人を放ってどこへ行くのだというのだろうか。自分は愛されていたんじゃなかったのか? 「お仕置き」と言っていたのがこの仕打ちなのか? 恋人としてこれは許せる範囲のことなのだろうか? 訳がわからなさすぎて楓真には到底理解ができなかった。  まさかこんなふうに抱かれるなんて夢にも思っていなかった。千晃が帰宅する前に自分で準備をしていなかったらどうなっていたかと思うとゾッとする。準備をしていてもこの有様……ヒリリと痛む尻と、殴られた脇腹、絞められた喉元も違和感が消えない。楓真は放心したように、しばらくの間ベッドから起き上がることができなかった。  最中、千晃はしきりに「痛めつけられるの好きだろ?」ということを言っていた。愛が感じられれば多少は乱暴にされても構わないとは思う。けれど自分にそういう性癖がある訳じゃない。痛いのは嫌だし、先程の千晃の行為には、残念ながら「愛情」など微塵も感じなかった。  のろのろと起き上がり、時計を見る。深夜0時を回ったところだった。こんな時間に出て行った千晃の行き先も気になるが、追いかけたくても身体中が痛く、また酷い扱いを受けるのではないかと躊躇ってしまう。もしかしたらこのまま帰らないかもしれない。せっかく再会できたのに、何でこんなことになってしまったのかと悲しかった。  シャワーの湯があちこち染みて痛みが広がる。血はでていないから大した傷ではないだろう。きっと千晃は手加減してくれたのだ、少しは「優しさ」があったのだ、と自分に言い聞かせる。 「うぅ……何なんだよ。痛えな……」  どうせ今は一人なんだ、と、楓真は声を堪え我慢していた涙をシャワーで流した。

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