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38 ストーカー

「いや、それより楓真君がまたあのストーカーの話始めたから、千晃さん面倒くせえって言ってたよ」 「は? 面倒臭いって……なんだよそれ」 「あらら、楓真君、かわいそ」  吏紀に捕まえられた楓真はソファにドスンと腰掛ける。先程から自分と目の前の吏紀の温度差が否めない。いちいち吏紀の言う事に理解が追いつかず、楓真は混乱しながら掴まれていた手を振り解いた。 「なあ、やっぱりストーカーってのは本当? 実は全然記憶がなくってさ」    堪らず吏紀に聞いてみると、「忘れちゃったの?」と笑われる。 「いや、楓真君ストーカーに付き纏われてたって言ってたよ? 千晃さんが。俺もよく知らんけど」  店の客でもない知らない男が楓真に近付いていたらしく、当時千晃はピリピリしていたと吏紀は話す。  本当に楓真がストーカー被害に遭っていたとしたなら、恋人である楓真への「面倒臭い」というこの態度はどうなんだ、と疑問に思った。再会してから、千晃は楓真のことをちゃんと「恋人」扱いしてくれていた。自分も千晃とは同棲するほどの仲だと、確かに記憶している。でも夢に見る恐怖の体験と、訝しげな千晃の表情が頭に浮かび不安になる。隣に座る吏紀の手が腰にまわっていることにも気がつかず、楓真は一人考え込んでいた。  チラリと過った考えに、思わず首を振る。でも心当たりと言ったらこれしかない。認めてしまうのが怖いけど、夢に出てきた人物、自分に付き纏っていたという人物はもしかしたら浩成だったのでは、ということ。でもそんな卑劣な行為を浩成がするとは思えない。短い期間でも密に過ごし、浩成の性格、人となりは少なからずわかっているつもりだ。曲がりなりにも恋をした相手である浩成が、過去に自分にストーカーを働いていたなど到底信じられず、それは楓真にとって認めたくない事だった。 「大丈夫? 怖い顔になってるよ? 楓真君さ、ほら……顔、よく見せて……」  吏紀の手が楓真の頬に触れる。突然のことにギョッとして顔を見ると、吏紀が迫ってきていて慌てて楓真は顔を背けた。 「な? なに? えっ、ちょっと……」  腰に手を回され、押さえつけられていて動けない。驚くことに吏紀は楓真にキスをしようとしていた。見ると避けられたことに気を悪くし不貞腐れた顔をしている。顔を背けたけれど、そのまま吏紀はお構いなしに楓真の耳を甘噛みした。 「吏紀?! なにすんだよ! 離れろって」 「やだなぁ、楓真君、つれないなぁ」 「は?!」  手首を捕まえられた楓真は強引に体を寄せてくる吏紀に対し思うように抵抗できない。なにが起こっているのか混乱する。息を荒くし体を弄ってくる吏紀は、楓真に対して明らかに欲情していた。  「手を放せっ! ふざけんな」 「なに言ってんの? 俺たちよく三人で楽しんでたじゃん。大丈夫、千晃さんもわかってるって」 「嫌だ、やめろ! ちょっと……あっ、嘘……」  吏紀は嫌がる楓真に構わず、服の中に手を忍ばせる。  首筋を舐め上げられゾワっと身震いをしながら、楓真は「嫌だ」と力なく抵抗した。

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