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39 過去の自分

 これは千晃も公認のことだった──  思い出したくなかった事実。  自分の首元に顔を埋め舌を這わす吏紀の姿に、楓真は溜息を吐きその頭を軽く撫でた。 「あれ? 諦めた?」  チュっと首に小さく音をたて顔を上げた吏紀は楽しそうに楓真に聞く。キスをしろとばかりに頬を掴む吏紀の手を楓真はパッと払うと「キスは嫌だ」と首を振った。  自分の恋人であるはずの千晃と同じ匂いが鼻を擽る。距離が近くに来る度に、吏紀の僅かな香水の匂いとタバコの混じった馴染みの匂いに千晃を感じ、胸の奥に靄がかかったように楓真は気分が沈んでいった。  なにをやっているのだろう……恋人ではない男に好き勝手に触れられても然程不快感を感じない。抵抗したところで無駄なのだと体が勝手に判断し、思考が鈍くなっていくような気がした。 「そ? じゃあキスはしないね」  一人楽しげな吏紀は抵抗しなくなった楓真の体を緩りと弄り始め、服を脱がせる。ああ、過去にもこうやって吏紀に触れられていたのだと、改めて溜息がでた。 「あの時はさ、千晃さんがほぼ独占してたから、俺、あんま楽しめなかったんだよね。今日は特別──」 「俺を抱くのか?」 「へ? 今更? そうだよ。俺さ、どっちもイケるから、最近じゃ楓真君のせいでもっぱら俺が千晃さんの相手してんだよ? そろそろ勘弁……」  千晃と吏紀、過去にこの二人を相手にセックスをしたことが何度かあった。正確には千晃との情事の最中に、知らない間に吏紀が加わり楓真が二人の相手をする。千晃に激しく揺さぶられ襲われる快楽に朦朧としながら、手淫や口淫で吏紀の相手もさせられていた。その行為を当時の自分は受け入れていたことに嫌悪する。そしてここ最近家に帰らないと思えば、堂々と吏紀と関係を持っていたことを聞かされ怒りより呆れる気持ちの方が大きかった。 「キス、したいなぁ。前は俺にもしてくれたじゃん。楓真君、可愛いのにな」 「うるさい……」 「楓真君、本当はどこまで思い出してるの? まだちょっとおかしいとこあるよね? まあ俺には関係ないからいいけどさ……」  吏紀の前で千晃に揺さぶられ、快感に喘ぎだらしなく口を開き、「しゃぶって……」と差し出された吏紀の滾ったそれに舌を這わす。むせながらも唾液を絡め、言われるがまま必死に咥えた。そんな過去の光景が頭に浮かび目の奥が熱くなった。   口元を避け、吏紀はいやらしく楓真の肌を舐っていく。弄る手指が腰に下り、下着の中へと滑り込んだ。掌で撫で回し、尻の割れ目に勿体ぶるように指を差し入れツンと突く。嫌だな、と思っても、抵抗しても無駄なのだと楓真の体は記憶していた。 「ここで……?」 「うん、そうだな、とりあえずしゃぶれよ……ほら、早く」  狭いソファに押しつけるようにして楓真を組み敷いていた吏紀はそう言うと、体を離し座り直す。徐にズボンをずらすと恥ずかしげもなく滾ったそれを露にした。顎で促され、楓真は吏紀の前に膝をつく。期待した瞳で見つめる吏紀をひと睨みすると、両手で触れゆっくりと口に含んだ。

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