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43 都合よく失っていた記憶の断片

 千晃に頬を叩かれ、なんとなく日常的に暴力を振るわれていたような記憶が薄らと蘇る。優しくて頼り甲斐のあるいい男だと思っていたのは、きっとずっと以前の付き合い始めたばかりの頃の記憶なのだろう。信じたくなかった嫌な記憶……そういった忘れたかった記憶を都合よく失っていたのだと思うと惨めで情けなくなった。 「あ、ごめんな……楓真、ごめん」  言葉を失い呆けている楓真に対し、千晃は慌てたように楓真の両頬を手で包み込みキスをする。思いっきり叩いておきながら泣きそうな顔をして楓真に謝罪の言葉を浴びせる千晃の姿が滑稽に見え、少しだけ冷めた気持ちになっていくのを感じた。 「俺、色々と忘れててごめん。吏紀のこと……吏紀とも一緒にエッチしたことあったよね? 千晃はなんで怒るの?」 「なんでって……今は楓真は俺だけのもんだろ? そうだろ? せっかく戻ってきたのに……」 「ちょっ……んっ、待って……嫌っ……」  楓真が悪いのだと言いながら、強引に足の間に割り入ってくる千晃は見せつけるようにして自身の下半身を晒す。「嫌じゃねえだろ」と、先程までの情けない表情が嘘のように、楓真を睨みつけながら滾ったそこを楓真に挿入した。 「なんで? なんて言うなよ! 楓真は俺のなんだから……ほら、好きだろ? 俺のがいいだろ? 吏紀なんかに突っ込ませてんなよ。突っ込んでいいのは俺だけだったろ? 忘れんなよ……お前は俺のなんだから……」 「ぐっ……苦し……あっ……やぁっ……」  身動きが取れないほどにきつく抱きすくめられたまま、千晃に奥深く抉られる。決して激しくはないその律動でも、今まで味わったことのないほど奥へ押し込まれる熱い滾りに、快感より恐怖心が湧いてしまう。奥へ奥へと千晃が腰を揺らす度、楓真を押さえつけている腕が喉元に食い込んで息ができなくなっていた。 「おお、気持ちい……楓真、やっぱりお前が一番いい……おい、楓真。舌出せよ……おい」  喉を圧迫され、口を開け息を吸うのに必死な楓真に千晃の呼びかけなど聞こえていない。意識が飛ぶ寸前で、千晃に頬を掴まれキスで口を塞がれた。  息も絶え絶え、乱暴に口内を舐られ、それでも楓真は朦朧としながら抵抗をする。今度はキスをするために千晃の手が楓真の頭を押さえつける。そのおかげで圧迫されていた喉元から腕が離れたため、少し体が楽になった。楓真は思いっきり息を吸い、むせ返りながら何とか意識を持ち直すと、力の入らない腕で千晃を拒んだ。 「ゲホッ! ハッ…… ハッ……や、やめて……もう、嫌だ……死ぬ……」 「死ぬほどいいか? ほら、もっとよくしてやる。おい、逃げんな……」  力の強い千晃に足を掴まれ、再び貫かれ激しく揺さぶられた。抵抗すればするほど酷くされるのがわかってからは「早く終われ」と心の中でひたすら呟き体を許した。  

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