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46 嫉妬

 浩成が何となくまわり道をして帰るようになって数日が経った頃、その公園にあの時の男が座っていた。初めて見た時と同じように項垂れて、じっと足元を見つめているように見える。特にふらついているわけでもなさそうだし、やっぱり酔っているのではなく、誰かを待っているのか一休みをしているといった具合なのだろう。  さりげなく男を盗み見しながら通り過ぎ、コンビニへ向かう。特に買うものもなかったけど、浩成は大して興味も無い雑誌をしばらくの間立ち読みし、ビールを買ってまた来た道を戻った。  あの時と違い、今度は少し時間を空けている。もうどこかへ行ってしまったか、それともまだそこに座っているか、一人小さな賭けをして浩成は少しワクワクしながら公園に向かった。 「……あ」  公園まであと数メートルというところで、向こうから別の男が早足でそこへ向かっていくのが見えた。前回と同じに俯いてベンチに座っていた男はその気配で顔を上げる。不安そうな顔から一変して、ぱあっと明るい表情を見せた。  初めてみる男の顔。公園のベンチを照らしている唯一の照明の光がその男の顔をはっきりと捉える。キリッと揃えられた眉に愛嬌のある少し垂れた目。そして迎えに来たであろう、もう一人の男を見つめる何とも言えない嬉しそうな表情。遠目に見ても何か特別なものを感じてしまう二人の様子に、浩成はチクッとする嫉妬心のような胸の痛みに顔を歪めた。    一目惚れとか、そういった理由ではない。  小汚いベンチに座り項垂れていた若い男。初めて見た時に顔が見えなかったのもあるのだろう。大した理由もない小さな好奇心で浩成はこれまでのルーティンを変え、毎日この公園の前を通っていた。  気になっていた男の顔が見られて嬉しいはずなのに、胸のモヤモヤが広がっていく。初めて見た男の顔は意外にも可愛らしく、浩成の心を軽く掴んだ。それも束の間、第三者の見知らぬ男の手を取り甘えたような表情を見せたことで、小さな嫉妬心が湧き上がった。思わず唇をキュッと噛む。少し先の二人の姿に、どうしても目が離せなかった。  浩成は二人の様子を見てすぐに察した。ああ、自分と同じ、同類なのだと。  目の前にいる同性のカップルに是が非でも嫉妬する。  自分にはないもの、今後手に入れることもないと諦めていたもの……  知りもしない赤の他人にこんな感情を向けてもしょうがないのを理解しつつ、浩成は足を止めスマートフォンを手に取った。

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