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 浩成は手に取ったスマートフォンを操作するふりをして、二人が歩き出すのを少し待つ。二人は浩成の存在に気がつくことなく、寄り添いながら歩き始めた。  後から来た男はベンチの彼より背が高い。少し見上げるようにして話をする彼の横顔が嬉しそうに綻ぶのを浩成はジッと見つめる。話しかけられている方の男はというと、笑顔で話す彼とは対照的に目も合わさずつまらなさそうにしているだけだった。  しばらくの間、二人の様子を伺いながらついて歩いた。  恋人同士だと思っていたけど、もしかしたらそうではないのか? ベンチの彼は明らかに好意を持って手を掴もうとしたり腕を組もうとアクションを起こしている。一方は気付いているのかわざとなのか、その手を避けるようにして歩いていた。少し可哀想だな、とも思いつつ、人通りがないとはいえ、外でイチャつくのは避けたいという理由での行動なのかもと思ったら納得がいった。    気がつけば彼らがマンションに入っていくのを見送っていた。一定の距離を保ちながらずっとついて来てしまったことに対して自分でも少し驚く。浩成は「何やってんだ……」と呆れながら来た道を戻った。  帰りの道すがらも二人の関係が気になってしまいしょうがなかった。浩成から見た二人は所謂「恋人同士」の関係だった。少なくともベンチの彼は後から来た男に好意を持っている。それは友人としてではない、恋心…… 男同士で? と普通なら思うだろうが、浩成は確信していた。  浩成は物心ついた時から自分は人並みの恋愛はできないのだと諦め、恋愛対象が自分と同じ同性だということは誰にも言えないでいた。  ありのままの自分でいることが怖いと思う。  人の目が気になってしまい、言いたいこともうまく言えない。ことあるごとに自分の言動がおかしくないか気になってしまう。大人になるにつれ、その思いがどんどん強くなっていった。気にしすぎなのだと言われればそうなのかもしれない。それでも浩成にとっては気楽にいられることもなく、自分を偽ってまで関わりを持たなくてはならない人付き合いが疎ましいと思っていた。故に今では気心の知れた友人もおらず、一人孤独な毎日を送っていた。  たまたま見た二人が隠す様子もなく堂々としていたことに軽く衝撃を覚えた。自分の周りには勿論、そういった指向の人間はいなかった。そもそも自分がオープンにしていないのだから出会いなどあるわけがない。  興味本位からこんなことまでしてしまった事に自分でも戸惑う。  それでもこの日を境に「帰りに公園に寄る」という新たなルーティンが加わった──

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