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48 接触

 彼が公園に現れるのは不定期だった。  ただ一人ベンチに座ってぼんやりとしている彼は、またあの時のように恋人を待っているのだろうか。二人が帰る家も同じであることから、きっと同棲をしているような深い仲なのだろう。それなのに、いつもここで座って待っている彼は何とも言えない寂しそうな顔に見えた。  人通りの少ないこんな場所にポツンとある一つのベンチ。たとえ座って休みたいと思ったとしても、先客がいたら普通の人なら余程のことでなければ隣には腰掛けにくいと思うだろう。流石の浩成でも彼の隣に突然座るのは不自然だとわかっていたから、通りすがら様子を伺い見ることしかできないでいた。  何度も何度もその姿を見ているうちに、浩成の心境も変わっていった。興味本位でのこの行動が、いつしか彼への好意からの行動へと変わっていった。彼のことがもっと知りたいと欲が出た。今まで出会ったことのない、自分にとっての「恋愛対象」である男。諦めていた恋心に火がつくのは呆気ないくらいに早かった。  恋人が来ず彼が一人帰る時に偶然その場に居合わせた時には、こっそりと後をつけたこともある。この頃には、彼が公園に現れる曜日や時間、延いては勤務先、彼が昼間仕事に向かう時間まで把握していた。  元来友人もおらず、これといって趣味もない。休みの日なども家のことをし、読書をするくらいしかやることのなかった浩成は彼の素性を調べるということに夢中になった。この行為がまるでストーカーのようだとは微塵も思わず、ただただ彼のことがもっと知りたいという思いで行動していた。遠くから見ているだけで心が満たされ、味気ない日々だったのが嘘のように充実した毎日に変わっていった。    思い立ったある休日、浩成はドキドキしながら美容院へ向かっていた──  店のホームページで彼を見つけ、数日前に指名をして予約を入れた。いつも見る暗がりでの彼のイメージとは違い、スタイリストの紹介ページに載っていた彼は誰よりも明るくキラキラしていて、愛らしく見えた。    彼に会える。話ができる……  まるで意中の人とデートをするかのように、持っている中で一番のお気に入りに身を包んでめかし込んだ。どうしようもなく浮かれる気持ちを抑えながら店に向かう足取りはとびきり軽い。いよいよ店の前に到着すると、浩成は緊張しながら扉を開けた。 「初めまして。楓真です。今日はどうされます?」  初めて聞く彼の声。鏡越しに目が合っただけで気分が高揚するのがわかる。ちゃんと聞くためなのか浩成の肩に手を置き、顔をグッと寄せて話しかけてくる行為にドキリとする。浩成は平静を装い「おまかせします」と伝えた。  浩成が知っている「美容師」のイメージとは少し違い、楓真はあまり馴れ馴れしく話しかけてきたりはしなかった。むしろ静かに客の話を聞く姿勢に好感が持て、人との会話が苦手だった浩成でも不思議と気後れすることなく自分から進んで話をすることができた。

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