62 / 77

62 繋がり

 解放を許されているはずの緩い拘束すら解くことも出来ずに、楓真はそのままの状態で千晃の帰りを待つことにした。  盛られた薬物のせいなのか体が重く頭痛も酷い。ふらつきながらよろよろとクローゼットの前まで歩くと、中にある自分の服のポケットから充電の切れたままのスマートフォンを取り出しギュッと握りしめた。  大丈夫……あの時の千晃とはもう違う。ここ最近では優しく気遣ってくれていた。暴力はふるわれない。体に染み付いたような恐怖心と不安を誤魔化すようにして、楓真はベッドに横になり体を丸めた。 「おい……寝てんの?」  楓真はベッドで眠ってしまっていたらしく、千晃の帰宅に気が付かなかった。不意に声をかけられ驚いて飛び起きると、無表情で自分を見下ろす千晃と目が合った。この状態で千晃と対峙する心の準備ができていない楓真は、何と声を発したらいいのかわからない。あの頃の千晃とは違うのだとわかっていても、実際足首に繋がれた鎖を見るとどうしても体が強張ってしまいしょうがなかった。 「それ……」  千晃の視線の先に気がつきドキリとする。楓真は慌ててそれをギュッと握りしめ胸元に隠すようにして抱きこんだ。 「そのスマホ、電源切れてんのにじっと見つめてたりさ……何なん? それ、お前のじゃねえだろ? お前のスマホ、どこやったんだよ」  千晃には「無くした」と嘘をつき、浩成からもらったスマートフォンはずっと隠していた。連絡手段がないと不便だと言いつつ、忙しさを理由に新たに買うこともしていない。自分のはきっと浩成のところにあの時のまま置いてあるはずだし、このスマートフォンがあることで浩成との繋がりはまだ切れてはいないのだと罪悪感を和らげていた。ここ最近では記憶も戻ったこともあり、何となく心の拠り所のように触れていることが多かった。それを千晃は見ていたのだと、目の前で表情無く淡々と話す様子を見て察することができた。 「なぁ、楓真はずっと浮気してたの? しれっと戻ってきやがってどういうつもりだ?」 「え……違う」 「浮気じゃなかったら、じゃあ何なの? 記憶なくなったとか言って本当は俺から逃げたんじゃねえの?」 「……違う」  千晃に近寄られ反射的に体を捩ると、それが気に障ったのか千晃は顔を強張らせながら強引に楓真の手からスマートフォンを奪い取り、目の前でへし折った。 「おいっ、嘘だろ……」 「充電も切れてんだ。いらねえだろこんな物。これでもう浮気もできねえよな」  力任せに投げられた無惨な姿のスマートフォンは、派手な音をたてて壁に当たり楓真の横に転がった。  自分を棚にあげ、浮気をしていたなんて言われるとは思わなかった。浩成の所にいたのは事実だけど、それは記憶を失っていたからであって浮気ではない。それに記憶を無くす以前も、浩成とはそんな関係ではなかった。友人と呼べるのかさえ怪しい薄い繋がりでしかない……  そう、楓真が一方的に淡い想いを寄せていただけなのだから──  

ともだちにシェアしよう!