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67 窓

 目の前に突きつけられたナイフはそのまま足元に向き、ヒタヒタと楓真の脛を撫でる。体を拘束されているわけではないのに恐怖から動くことができなかった。 「ねえ楓真君、知ってる? この部屋鍵つけてあるの。千晃さんも大概やばい人だよね。外から鍵かけたら中からは出られないんだって……」  現に足首に装着された鎖を見て、これは普通じゃないことはわかっていた。でも寝室に鍵までつけられていることは知らなかったし、気が付かなかった。外側にだけ鍵が取り付けられているということは、初めから「閉じ込める」目的で付けられたということ……今までの千晃の態度、気まぐれに浮気を繰り返し、恋人である楓真に対する酷い言動。再会し、最近こそ優しくなったとはいえこれまでの千晃からは自分にそんな執着してるとは思えなかったから、信じられない思いでいっぱいになる。 「どうする? 足のそれ、外しておいてあげよっか? そしたら窓から逃げられるよね? 頑張れば解放されるよ」 「え……?」  吏紀の言うことにいちいち動揺してしまう。何を言っているのか、理解するのにどうしても時間がかかる。 「窓から、逃げる?」 「そう。だって千晃さん、楓真君手放す気なさそうだし、もう好きじゃないんでしょ? この状況から抜け出したいんでしょ? なら強行するしかないじゃん」 「強行……」 「千晃さんにドアは閉めとけって言われてるし、楓真君をここから出す気なさそうだしさ。逃げなきゃずっとここで飼われることになると思うけど?」 「………… 」  それこそ本当に監禁されるということになる。馬鹿なことを言っていると思っても、吏紀も千晃も冗談で言っているようには思えない。窓から逃げると言ったって、ここはマンションの一室。一階ならともかく十階の部屋だ。 「万が一落ちちゃったら事故かな? 自殺かな? どっちになるんだろうね?」  ケラケラと笑いながら楓真の足に装着されているベルトをナイフで雑に切り裂き、吏紀は「じゃあね。頑張って」と言い残し部屋の鍵を掛け出て行ってしまった。 「いや、待って……え、本当に鍵……嘘だろ」  冷静に考えれば「窓から脱出」などという提案に乗る必要はない。よほど頑丈なものではない限り本気で体当たりでもすれば部屋のドアなど簡単にぶち破れるだろう。それに逃げ出さずとも、時間が経てば千晃は帰ってくるはず。その時にちゃんと話し合えばいいだけのこと。  でも、果たして「ちゃんと」話し合うことなどできるのだろうか? 行動範囲は広くとってくれてたとはいえ、そもそも楓真を鎖で縛り付けている時点で千晃の思考はまともではない。  楓真は軽く深呼吸をし、窓の側へ近寄った。

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