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70 あの時の真相/浩成の見た事実
楓真とのささやかな逢瀬──
ストーカーのような執着で楓真に近付き、そしてすっかり仲も深まり信頼も得た頃、思い切って千晃との関係を指摘した。酷い仕打ちを受けているにもかかわらず、「愛されているから」と笑う楓真の態度はDVを受けている人特有だと思った。あんなにも認めなかった楓真も、浩成の言葉でやっとおかしいと気が付き始め、前に進もうとしていた。
「近いうち、千晃と話し合おうと思うんだ」
そんな風に笑顔で言っていた矢先の出来事だった。
浩成はその日はあの公園へは立ち寄らなかった。初めこそ楓真に会いたい一心で頻繁に公園へ訪れていた。でも千晃と楓真の関係がはっきりとわかってからは、下手に誤解をされないよう会うことを控え目にしていた。いつものように真っ直ぐ家に帰り、いつも通りにただ寝てまた同じ明日を迎えるだけ……
「え……?」
道すがら目にする歩道橋。その上にぽつりぽつりと人影が二つ見えた。人通りはほとんどなく、何となしにたまたま見ただけ。浩成はその歩道橋を通ることはなかったけど、その目に入った人物の一人がどうしても楓真に見え、自然と階段に足が向かっていた。
階段の近くまでくれば視線の先、向こうの階段側に見えるのは楓真だとわかる。でも楓真が帰宅する時間にしては少し早い。どうしたのかと不思議に思いながら階段を上がっていくと、先にいた人物が足早に楓真に近付いていった。
そこからはあっという間だった。
「え? 嘘だろ? おいっ!」
楓真に近付いて行ったその人物は、楓真に声をかけるなり躊躇うことなく思いきり両手で突き飛ばしたように見えた。おそらく不意をつかれたであろう楓真は階段の上から一気に下まで転げ落ちていき、突き飛ばした当人はその場で固まったように立ち尽くしている。浩成はとにかく楓真を助けなければとその男の横を通り過ぎ、地面に横たわる楓真のところまで一気に駆け降りた。
「楓真! 楓真? 大丈夫か?」
声をかけても反応がなかった。頭からは血が流れているし顔色も真っ青に見え、怖くなった。下手に動かしたらだめだと思い、浩成は震える手でスマートフォンを取り救急車を呼んだ。
救急車が来るまでの間、たまたま通りかかった人も動揺している浩成を気遣い助けてくれた。何があったのか問われても、事故なのか故意なのか、はっきりとは言えなかった。「一番上から転落しました」そう伝えたのはなんとなく覚えている。ピクリとも動かず、瞼を閉じたままの楓真の姿ばかりが記憶に残る。このまま目を覚まさなかったらどうしよう、生きているのかさえわからなく、ただただ恐怖で震えることしかできない自分に腹が立った。
病院に搬送され適切な処置をされ、一時的に入院することになった楓真に浩成はずっと付き添った。楓真には頼れる身内もいないことを知っていたから、自分が保証人となり引き受けることに決めた。これは浩成が勝手に決めたこと。頭を打っていたものの、検査の結果は問題無し。それでもなかなか意識の戻らない楓真に寄り添い回復を待った。
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