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76 帰宅/楓真の思い

 浩成の家に二人で帰る──  改めて記憶が全て戻った今、楓真は浩成になんと言ったらいいのかわからなかった。  こうなったのも全て自業自得。千晃と別れる決意をしたものの、もたもたとしていたせいで吏紀にまであんな行動を取らせてしまった。 「手紙……なんて書いたの?」  ゆっくりと振り返り、浩成が楓真に聞く。千晃のマンションから出る前にせめて置き手紙でも、と咄嗟に楓真は一言だけ紙に書きテーブルに置いてきていた。もう会うことはないと決めたものの、やっぱり黙って出て行くことはどうしてもできなかった。 「うん、今までありがとうって……それだけ」 「そっか……」 「吏紀が、きっと吏紀が千晃をなんとかしてくれると思うから」  そう、きっと大丈夫。自分がいない間、吏紀が千晃と一緒にいたのだから。  吏紀も千晃のことを愛していたのはわかっていた。こんなことになったとはいえ、千晃の今後を気にしてしまう。記憶を失い千晃の前から姿を消しても、結局探しにも来なかったことを考えるともうこれで縁は切れることだろう。それでもこれで良かったのかと不安になった。 「楓真?」 「うん……」 「大丈夫だよ。俺がいるから」  楓真の気持ちを察してか、浩成は優しくそう言うと笑顔を見せた── 「なあ楓真、約束、覚えてる?」 「約束?」 「千晃と別れて、住むところが見つかるまでここに住むって」 「あ……それは」  忘れるわけがない。ちゃんと全て思い出している。  千晃と別れ、住むところが見つかるまで浩成に世話になる予定だった。その時から密かに浩成に惹かれていた楓真は改めて言われると嬉しい気持ちと申し訳なさで複雑な気持ちになってしまう。 「もちろん俺は構わないからな。なんならずっと、ずっとここにいてほしい」 「だって、それじゃあ浩成君に悪い……」 「悪くない! もう俺の側から離れないでほしい……楓真のことが好きだから」 「………… 」  記憶を失っていた間のこともちゃんと楓真は覚えていた。  浩成が自分のことを「恋人」だと言ったこと。記憶をなくしていたけど、浩成と過ごすうちに、また好きな気持ちが溢れたこと。「好きだから」と告白された今、浩成の気持ちをちゃんと聞けて嬉しく思った。 「嘘を言っていたけど、それ以前に……俺は楓真のことがずっと好きだったんだ」  浩成は言いにくそうに顔を伏せ、ボソボソと自信なさげに話し始める。楓真は浩成の告白に嬉しさしかないのに、なんで浩成がこんな辛そうな顔を見せるのかわからなかった。

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