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1-コンクリートジャングル(3)
「あ、槙野さん!おはよーございます!」
琉夏の横で椅子に座っていた神崎が、急に立ち上がって嬉しそうに笑顔になる。
槙野が出社してきた。
「おはよう」
心なしか、いつも顔色を変えない槙野が、神崎に対する時だけ雰囲気が柔らかくなってる気がする。
そして間違いなくそれは気のせいじゃないのが、腹の立つところ。
槙野はそんな駄犬なんて相手にしなくていいのに。
槙野は、大学の時からの友人だ。
かつ、俺の片想いの相手でもある。叶わなかったが。
白磁のような清い肌、体躯は華奢なのに儚さなど微塵も感じさせない強い双眸が好きだった。
惚れていた、が、フラれた。断られたと言ってもいい。
それはもう、はっきりと。
それはもう、何回も。
だから、出会ってから今までずっと、槙野の『友人』枠におさまっている。
そんな俺と槙野の間に横入りして、『恋人』いや、あいつは『ペット』だ、……どちらにしろ俺にはたどり着けなかった槙野の隣を、あの神崎はあっさりと奪っていった。
どうしてって……、ずっと別の部署だった槙野とようやく同じ部に異動できたと思ったら、なんと不甲斐なくも俺が体調を崩してやむなく入院した。
ようやく復帰した時にはすべて終わっていて、とっさに神崎を脅したものの、その時には手遅れだった。
軽薄な見た目に反して一途な神崎に、いつの間にか槙野は心を許すようになってしまった。
もちろん今でも、おそらくそんなことは起こらないだろうが、神崎が槙野を蔑ろになどしたら俺は神崎を赦さない。
……しかし、それも今となっては早くも俺の中ではいい思い出になりつつある。
今俺は琉夏の魅力に全面降伏している。
はっきり言って幸せだ。
夢中になれる相手が傍に居るというのは、精神衛生上極めて良いみたいだ。
琉夏がまだ俺を見てくれないっていうのが、今は最大の課題だ。
琉夏のがっしりした手で、脳ミソというか、心を鷲掴みにされている気分。
つまり理性じゃなくて、本能で琉夏に惹かれてる。
皮肉と色気を滲ませる口許に。
野生の肉食獣を思わせる、決して手懐けられない眼差しに。
鼓膜、いや胸を震わせる、ほろ苦い声音に。
分かってる。
そろそろ愛だの恋だのとおままごとして遊んでる年でもないことは分かってる。
それでも、どうしようもなく惹かれてしまったのだから、しょうがない。
色恋ボケと嗤いたいなら嗤えばいい。
愚か者と呆れるならそうすればいい。
俺は本気だ。
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