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1-コンクリートジャングル(5)

「普段は昼飯どうしてる?俺はコンビニか食堂で済ませてるんだけど」 「あぁ、じゃ、ちょっと遠くてもいいか?たまに行く蕎麦屋がある」 「お願いするよ」 そんなやり取りを交わして琉夏の後をついて歩くこと五分、どこの街にもありそうな、ほどよく古びて飴色をした蕎麦屋の暖簾をくぐった。 店内は混み始めていたが、ちょうど二人分の席が空いていたので滑り込んだ。 店員に注文を告げ、向かいに座った琉夏がふっと一息ついて顔を上げる。 途端に微かに、ごくわずかに、何か違和感でも見つけたように片眉を歪めた。 「なんだい琉夏。何か言いたい?」 躊躇いなく琉夏は言う。 「いや、まんまとあんたのペースに巻き込まれたな、と思って。なんで俺、西嶋さんと昼飯食おうとしてんだ」 「人聞きの悪いことを言うね。俺に何か言いたそうにしてたから誘ったんだよ?それに、たまにはこういう日があってもいいだろ?」 「たまに?二度は御免だ」 「ふふ。今後はずっとスーツ姿の琉夏と仕事ができるなんて、楽しみだな」 「はあ?!冗談じゃねぇ。こんなのずっと着てたら肩が凝っちまう」 食事が運ばれてきて、琉夏は両手を合わせてから、小気味良い音を立てて割り箸を割った。 琉夏は天婦羅蕎麦、俺はかつ丼に手をつけた。 しばらく二人とも無言で箸を動かす。 ふと視線を上げて琉夏を見た。 「君は美味しそうにものを食べるね」 「あぁ?ここの蕎麦結構美味いぜ」 「俺のかつ丼も出汁がきいてて美味しいよ。でも、それだけじゃなくて、勢いというか、表情というか……よく分からないけど美味しそうに食べてる」 海老の尻尾を薬味の小皿に避けながら、琉夏は軽く笑った。 「よく分かんねぇな」 「うん。よく分からない。けど、一緒に食事をしていて楽しいよ」 「ふふん、そうかい。そりゃ良かった」 ずずっと小気味よく蕎麦をすする。 それからしばらく、たまに一言二言言葉を交わしながら食事を楽しんだ。 当初琉夏は俺に文句のひとつも言うつもりだったはずだけれど、腹が満たされると、不満も落ち着いたのか、大人しくしていた。 ひと悶着あったのは、午後の業務を終え、定時になってさあ帰ろうかという時分だった。 片づけを済ませた琉夏が立ち上がり、バッグを持ちながら俺に向かって軽く言った。 「じゃ、明日……は無理だが、週明けにはスーツはクリーニングして熨斗つけて返すからな」 「いやいや、それには及ばないよ。それは琉夏のために作ってもらった物だから。琉夏のものだよ。明日は着てきてほしいな」 琉夏は大仰に顔をしかめる。 「そう言うとは思ったが、絶対にお断りだ」 「ふふ。そう。じゃあ明日はちょっとテイストを変えてみるよ」 「そういう問題じゃねぇって解って言ってるだろ。冗談じゃねぇぞ」 琉夏は思ってたより頑固だな。 琉夏としばらく言い合っていたら、思わぬところから援護射撃が来た。 「早野、明日はスーツで来てくれ。客先に呼ばれてるんだ。新規の案件になりそうだから、早野を連れていければ話がはやい」 「ま、き、の、さ……ん」 予想だにしていなかった槙野の加勢に、琉夏がひるんでる。 「任せろよ槙野。俺が責任もって琉夏にスーツ着せるから」 「そうか。助かる」 ふふ。明日も楽しみだな。

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