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1-コンクリートジャングル(8)
「お話をいただいたのは、昨日の夜であってますよ。……昨日作ったクラムチャウダーなんですが、明人さんいかがですか?」
「あ、ああ、うん。欲しい。ありがとう」
半ば唖然としながら、俺は朝食の席についた。
「私も、ちょっとやりすぎかなとは思ったんですけど……。楽しそうなお話だったので、ベッドに入っても考えてしまって。サイズをちょっと変えれば使えそうな、ちょうど仕掛中にしていた品があったので、つい仕立ててしまいました。……ありがとうございます。久しぶりに時間を忘れるくらい楽しかったです。やはり着る方が居てこその服ですね」
クラムチャウダー、温めたロールパン、簡単なサラダが食卓に並ぶ。
俺はまだ混乱中だった。
温かなスープを掬いながら、ようやく目が覚めてきた。
いや、新しいスーツを見た時にこれ以上ないほどに目は覚めていた。
ようやく人心地がついたと言えばいいだろうか。
「え、百合人寝た?無理させてたらごめんな」
「いえいえいえ、とんでもない!明け方には寝ましたし、なんなら寝なくても良いくらい元気ですよ」
「だめだろ、ちゃんと寝ろよ。……そっか、百合人が楽しかったならいいけど」
「ふふ、明人さんが起きてらっしゃる前には完成させて、驚かせたかったんです」
細面を和らげて百合人が悪戯っぽく笑う。
「驚いたよ。来週中にできたら御の字かな、くらいに思ってたんだから」
「やだなあ、明人さん。私の腕はそんなものじゃないですよ?自分で言うのはおこがましいですが」
「あ、ごめんごめん。信じてなかった訳じゃないけどさ。……そうかぁ、もうできたかぁ。早速今日着せよう」
俺は俄然今日の出勤が楽しみになっていた。
結果は話した通り、大成功。そして今に至るってわけだ。
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