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1-コンクリートジャングル(9)

琉夏に見惚れる二日目。 今日は出だしから好調だ。 懲りずに反発する琉夏をまた着せ替えて、デスクの向かいからうっとり眺めている。 ストライプの織りが美しいブラックスーツに合わせたのは、濃紺のワイシャツ。ネクタイはシンプルなものにした。 「おいおいおい西嶋さんよ、まだ着せ替え遊びに飽きないのか」 「飽きないなぁ。自分でもびっくりするくらい楽しいんだよ」 「じょーだんじゃねー」 着替えて席に戻ってきた琉夏は両目を天井に向けて、呆れた、というような顔を作った。そしてぐったりとそのまま椅子の背もたれに体を預けた。 あぁ、もちろんネクタイは今日も俺が締めた。 俺だけの特権だ。これは他の誰にも譲れない。 昨日言っていた槙野の外出は午前中のようで、槙野はいつもより早く出勤してきた。 槙野を課長席、その正面に琉夏と俺が陣取ったこの席配置は、琉夏がスーツをキメているおかげか、まるでドラマのワンシーンのようだった。 整い過ぎて作り物めいている。 「早野、既知の内容だとは思うが、念のため目を通しておいてくれ」 槙野が琉夏に資料を渡している。 「ぅ、ほんとに俺連れてくんですか」 「昨日そう言っただろう?せっかく良い格好してるんだから、活用しろ。……いつもあそこに呼ばれると、俺が一人で行くから、向こうの委託電算会社が人数にモノを言わせて圧迫してくるんだ。プレッシャーだぞ、広い会議室の隅で、こっちは一人、相手が十人近くで前後左右を取り囲まれるんだ。いい機会だとばかりに、質問が止まらないんだぞ。あの圧力を早野にも味わせてやるよ。本当は西嶋も連れていきたいところなんだけどな。三人外出してしまうのは辛いから、今日は二人にする」 よほど毎回辛いのか、槙野が珍しく饒舌だ。 琉夏は槙野から受け取った資料に目を落としながら、弱り切ったようにため息をついた。 「西嶋さん、恨むぜ」 「ちょっとかわいそうな気もするから、今日の昼食は奢るよ」 「割に合わねぇ。鰻でも奢ってくれ」 琉夏が泣き言を零した。 槙野と琉夏はしばらくして出掛けていった。 昼前には帰るそうだから、俺も一仕事片づけておこう。

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