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1-コンクリートジャングル(10)

しばらく、スケジュール調整やら資料作成やら、琉夏にうつつを抜かしていて滞りかけていたタスクを片付けていた。 ……。 「すみません西嶋さん、質問したいのですが今お時間ありますか?」 「うん」 声をかけてきたのは神崎だった。 俺が以前いた部署で使っていたテストツールを、神崎のところのプロジェクトで使う案が出たので、仕様について聞きたいと言う。 後輩らしくしおらしい態度で来たから、特に対立する理由はない。 しばらくマニュアルを開きながら説明すると、神崎は納得したようだった。 「ありがとうございますー。これなら使えそ……あれ、早野さんは外出ですか?珍しいですね」 「ああ、槙野と一緒にな。外に出てる」 「え」 どういう意味か、神崎が一言発してそのまま固まった。 「どうした?」 「うー……。や、いや、何でもないです」 歯切れの悪いやつ。しかも、まだ何か呟いてる。 まきのさんしんじてるし、だってさ。 うだうだと、腐った卵みたいなやつだな。 こういう奴はイライラする。 神崎の肩を掴んで強引に引き寄せる。 こいつにはバレてるから、気を遣う必要はない。 耳元で言ってやった。 「はっきり喋れ。できないならその口縫い閉じるぞ」 「相変わらず性格悪いですね」 「お陰さまでな。で、槙野と琉夏が一緒に外出してると何か都合が悪いのか?」 神崎は曖昧な笑みをじわりと浮かべた後、ダムが決壊したように泣き出し……そうになった。 「ぅっ」 「馬鹿ッ、馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿野郎、ここで泣くな!せめて俺がいないところで泣いてくれ!」 このタイミングで、まさか泣きだすとは思わないだろ? 俺も慌てて手に持っていたバインダーで思わず神崎の顔を覆った。 が、たぶん角が神崎の額にヒットして、鈍い音がした。 このバインダー、五センチくらいの厚みがあったのを忘れてた。 「うぅう~」 神崎がバインダーを取り上げて、ふくれっ面をあらわにした。 「めっちゃ痛いんですけど。腹立ってきた」 怒りで涙は蒸発したらしい。代わりに額が赤くなっている。 安堵の溜め息をついた俺は、また泣かれる前に手を切っておこうと、椅子を前に向けた。 「用が済んだならさっさと行け。かわいいワンちゃんには分からないかもしれないが、今俺は仕事中なんだ。邪魔するな」 ところが、神崎は開き直った。 「西嶋先輩、お忙しいとは思うのですが、相談にのっていただけませんか?」 「ごめんな、無理」 三十六計逃げるに如かず。 俺は神崎に背中を向けた。 「槙野さんと早野さんの、『早野さんの』話なんですけど」 うっ。 やはり神崎。猪口才な。 そう言われて無関心のままではいられない。 俺は降参した。

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