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1-コンクリートジャングル(12)

「俺が知ってる限り、深い意味はないぜ」 神崎は深刻そうに話すが、事情があるわけじゃない……はず。 「琉夏はプログラマとしては優秀だが、知っての通り性格のクセが強いだろ。新人の時からもて余すっていうかたらい回しにされてたんだが、槙野はその辺こだわらないから、結果的に槙野が便利に使ってるってだけだな」 ほんとに?という顔で神崎が俺を見る。 ほんとに。という顔で俺は神崎を見返した。 「槙野達が帰ってきたら、どっちにでも、好きな方に聞いてみろよ」 「それができないから、しかたなく西嶋さんのとこに来てるんじゃないですか」 意気地のない奴だな。 「そろそろ帰ってくるんじゃないか、二人とも」 「うー」 「唸るなよ。犬かよ」 「どうせなら猫と言ってください」 「面倒な奴だな。もういい加減仕事に戻るぞ」 「うぅう。はい……」 しおしおになった神崎を連れて、事務室へ戻った。 事務室の入り口には大きめのハンガーラックがあって、寒い季節になるとコートがわさわさと掛かっているのだが、そこに槙野と琉夏がいた。 二人は機嫌もよく、冗談を言い交わしながらコートをハンガーにかけている。 多少ぐったりして戻ってきたところに鰻を奢って、俺が琉夏を元気づけてやろうと思ったのに。 あてが外れた。少しがっかりだ。 「槙野、琉夏お帰り。打ち合わせはうまくいったのか?なんだか機嫌良さそうだけど」 声をかけると、和らいだ表情で槙野が振り返った。 「ただいま。おかげ様でな。早野が向こうを返り討ちにしたのは気持ち良かった。ぎゃふんと言わせるってのはああいうことを言うんだろうな。初めて実例を見たよ」 「俺は、あんまりあいつら……あ、いや、えーと……あちらが理不尽なことを言ってくるから、ムカッと来て言い返しただけですよ。ただの揚げ足取りです」 「揚げ足取りってレベルじゃなかったよ。いや、早野を連れて行って良かった。次回も頼むな」 「えっ」 槙野の最後の一言に、琉夏が硬直した。 「駄目ですッ!早野さんじゃなくて俺連れてってください!」 後ろでどんよりしていた神崎がいきなり割って入った。 「どうした神崎」 槙野が目を丸くする。 俺?俺はにやにやしてる。 まさか槙野の痴話喧嘩を見る日が来るなんてな。ふふ。 「昨日から早野さんの話ばっかりじゃないですか、ちょっとはお」 「ちょっと神崎。向こうで話そうな」 顔を赤くした槙野が、神崎の口を塞いで廊下に出て行った。 不思議そうな顔をした琉夏が聞いた。 「どうしたんだ神崎は?槙野さんと喧嘩でもしてんのか」 「ふふ。知らぬは本人ばかりなり、だな。神崎が、琉夏に槙野を取られたってキャンキャン鳴いてるんだよ」 「はーあ?俺が?何考えてんのか分かんねぇな。想像力たくましすぎるんじゃないか」 琉夏はあきれ顔で首を傾げる。 「そう言ってやるなよ。神崎のやつ、昨日はかなり寂しかったみたいだぞ」 「ふーん。俺に槙野さん取られたってか?そりゃ要らん心配させたな」

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