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1-コンクリートジャングル(14)

「どこのどいつだ……こんなクソデータぶちこみやがったのは」 「大事な大事なお客様がぶっこんでくださったんだよ。……琉夏、愚痴は後で聞いてやるから、調査早く。どのデータのどこがどういう具合にクソなんだい?全部?それとも一部かい?」 鰻はあっけなく消えた。雲散霧消というやつだね。 現在十八時半過ぎ、金曜日の夜。 酒が飲める店はもう客でいっぱいだろう。 鰻も美味しくいただかれているに違いない。 俺たちは席だけ予約していたが、キャンセルした。 今は昔の十八時頃、ちょっと遅刻だが仕事を切り上げて琉夏と一緒に事務室を出ようとしたら、片手に電話を持って必死な顔の、新人の高橋くんに引き留められた。 「すみません!西嶋さんッ!帰るのちょっと待ってください!!」 「え、え、俺?……あー、何?」 もちろん琉夏もその場に引き留めた。これは長丁場になる予感がした。 「運用部から連絡があって、β社の出入金管理システムでエラーが出ていて処理が止まってるそうです。私じゃ対応しきれなくて……。すみません西嶋さん、話聞いてもらえますか?」 「β社なら、今日締日だろ。アタリ引いたな」 はは、と後ろで琉夏が乾いた笑いを零してる。 もちろん俺はどさくさに紛れて、琉夏の手を掴んで引き留めている。 琉夏の手のひら、あたたかくて大きいな。指はちょっとごつごつしてるけど、それがなんとなく頼もしくて心地良い。 握り返してくれたら嬉しいのに。 琉夏ったら、たぶん俺が手を握ってる事すら気にも留めてない。 もう。 これは、アレだ。ダメなやつだ。 そんな鈍感な人は最後まで付き合ってもらわないと。 「はい、お電話替わりました。西嶋です。エラーが出てると聞きましたが、今その内容を読み上げてもらうことはできますか?」 バッグから急いで手帳とペンを取り出して、エラーコードとメッセージを書き止める。 「ありがとうございます。急ぎ確認して、また連絡いたします。はい。そうですね、後続処理はこちらから連絡するまで流さないでください。失礼します」 琉夏にエラーコードとメッセージを書いたメモを渡しながら、外線電話に手を伸ばす。 「エラーコード出てるから、そう苦労しないだろ。琉夏、調査よろしく」 「手ぇ放してくれ。何してんだよ」 ようやく気付いてくれたので琉夏の手を解放した。 「β社の担当捕まえたら西嶋さんもこっち手伝えよ」 あぁあ、恋しい背中が本番室にさっさと行ってしまう。 でもまぁいいか。 これで今夜はしばし琉夏と一緒だ。 エラー?そんなの、琉夏と一緒に居るためのちょっとしたイベントだ。 もちろん偶発的なアクシデントだけど。 鰻と酒で夢見心地、楽しい夜が、きりきり仕事をこなす琉夏を愛でる夜になった。 さあ、誰に電話すれば、俺も琉夏の隣に行っていちゃつけるんだ?

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