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1-コンクリートジャングル(15)
うちのβ社担当の米田さんには連絡がついた。
一時間足らずでこちらに来るそうだ。
到着までには調査を終えて、到着次第再実行もしくは中断でもなんでも、その後を確認して、後腐れなく琉夏と遅めのデート開始、と行きたいところだ、けれど。
「えーと、前段階で投入したデータが部分的に壊れてて、しかも壊れ具合が絶妙なせいで、壊れたまんま取り込んで処理できちゃったのが原因だな。大丈夫そうなデータ数件抜き出してまっさらなテスト環境で回したらうまく行った」
「ああ、β社がヤっちゃったのか」
「そうだな。投入データのチェック処理に追加したいところだな。事情があんのかも知れねぇけどよ、でかい声じゃ言えねぇが、うちも要対応に見える」
琉夏が片頬でニヒルに笑う。
「どうすんだ、これ。俺はやらないぜ、正常データだけ抜き出して入れるとか。事情知らねぇが、俺だったらマスタをキレイにして最初っからまっとうなデータでやり直すな」
ああ、その笑い方、好きだな。
素直じゃない琉夏の性格がよく出てる。
ひねくれてて、正面向きあって助けてくれる人じゃない。
でも、そっぽを向いていても後ろ手に命綱を持っていてくれる。
今回だって、テスト環境作ってまで検証してる。
根はお人好しなんだ。
人が好すぎるから、だから、俺の遊びに嫌な顔をしながらも付き合ってくれてる。
あぁ、遊びってスーツの件な。このトラブルはもちろん遊びじゃない。
琉夏の隣に腰を下ろす。
「しばらくしたら担当の米田さんが来るって言うから、今は待ちだね。……あ、高橋くん、ありがとうね、おつかれさま。米田さんと連絡ついたから、高橋くんは帰って大丈夫だよ」
「そ、うですか。あんまりお役に立てなくてすみません」
「いやいや、そんな事ないよ。むしろ口の悪い先輩と一緒に頑張ってくれてありがとうね」
高橋くんは遅くまで引き留めてしまった。
もう帰してあげる頃合いだ。
「じゃあ……ありがとうございました。お先に失礼します」
後ろ髪引かれながら高橋くんは帰っていった。
……。
さて、お楽しみの時間だ。
担当の米田さんが来るまでに、琉夏を落とせるか。
ジョーカーの鰻は抜かれてしまった。
残る手札では、もう勝ち目はないように見えるが、ゲームを降りる気はさらさらない。
俺はとりあえず琉夏の隣に腰を下ろした。
「米田さん来るって、何時だよ」
「あと一時間もかからないって」
答えた途端、きゅるると琉夏のお腹が鳴った。
「一時間ももたねぇってよ」
琉夏がぐったりと天井を仰ぐ。
「さっき高橋からチョコ貰ったけど、もう消費されちまったみたいだ」
くるる。
俺のお腹も鳴り始めて、思わず赤面してお腹を押さえた。
「はは。西嶋さんでも腹は鳴るんだな」
琉夏が俺を見て笑う。
「当り前だろ。昼から何も食べてないんだから」
「ふ。そりゃそうだけどよ。お澄ましした綺麗なお人形さんみたいな見た目だけど、やっぱり生身の人間なんだなって思ってよ」
「俺をなんだと思ってるんだい?どこにでもいる普通の二十九歳男性会社員だよ」
「だから、見てくれが普通じゃねぇってんだよ。はは、ちょっと楽しくなってきた」
人形とは、まことに不本意だ。でも、琉夏の笑顔が見れるなら、何でも許す。
検証機の画面を睨んで、この後の予定を考える。
当初予定していた店に予約なしで行ってみるか、それとも他の店か。
どちらにせよ、俺たち二人とも、『飲みたい』よりも『食べたい』のは間違いない。
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