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1-コンクリートジャングル(17)

「うめぇ……」 琉夏がしみじみと、ため息をつくように言葉を吐き出した。 「なんだい琉夏、泣いてるのかい?」 「わさびがきいてんだよ、馬鹿野郎」 琉夏が俯いて目頭を押さえるから、何事かと顔を覗きこんだら、ちょっと噛みつかれた。じゃれるように。 琉夏は鰻食べて満足そうだし、俺はそんな琉夏が見られて満足だ。 米田さんはちょっとばかり時間外に出勤することになってしまったけれど、結果的には今日できることをすべて終えて、後腐れなく帰っていった。 良い日じゃないか。 鰻の白焼きを一切れいただく。 ほどよく脂がのっていて、わさび醤油がよく合う。 琉夏の強い要望で、さっぱりと辛口の日本酒の燗をつけてもらった。 「間に合ってよかったね」 「ん」 手酌しながら、琉夏は素直に頷いてくれた。 琉夏が満足してくれて、俺も嬉しい。 現在、時刻は十九時半を過ぎたところ。 なんとか、予定していた鰻屋に滑り込むことができた。 蒲焼きを焼いてもらっている間、白焼きを味わっている。 美味しい。 琉夏が美味しそうに食べるから、更に美味しい。 「ふふ」 あんまり嬉しくて、つい、笑いが零れた。 「なに笑ってんだよ」 また一切れ頬張ってから、琉夏が聞いた。 琉夏が仕事中の顔じゃない。 土台が無愛想なのは変わらないけど、今の琉夏は、表情が少し柔らかい。 少し、本当に少し、優しい顔をしてる。以前の俺なら気付けないだろうけど、二日間見つめ続けた今ならはっきり分かる。 俺は琉夏の機嫌の良し悪しが分かるようになったのが嬉しくて、嬉しくて笑いが止まらない。 俺と二人でいる今、ほんのちょっとでも優しい顔をしてくれるのが嬉しくてたまらない。 なんでそんなことが嬉しいのかも分からないまま、俺は小さく笑い続ける。 「西嶋さん、あんた笑い上戸だっけ?」 呆れた顔で琉夏が言う。そんな顔もやっぱりほんの少し優しい。 「うぅん、こんなに笑いが止まらないのは初めてだよ。なんか嬉しくてさ、嬉しくて……どうしても笑っちゃうねぇ。ふふ。琉夏、なんとかしてよ」 「いや、知らねぇよ。てめぇでなんとかしろよ」 「あはは」 「あははじゃねぇよ。……だめだ、完全に酔っぱらいだな」 諦めたらしい琉夏は一度お手上げのポーズをして、また一口酒を飲んだ。

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