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1-コンクリートジャングル(18)
結局俺は、蒲焼が来るまで笑い続けていた。
琉夏はそんな俺を目を細めて眺めながら、時折冗談を言ったり、茶化したりして、更に笑わせた。
「ふ、ふふ。やめてよ琉夏。お酒、ふふっ、飲めない、からっ」
笑うたび手がぶれて、揺れる杯から温かな酒が零れそうなのを、必死でこらえる。
「はは。……だからよ、それ以来寒ブリは……」
「く、くく、ふふふ、食べれないってかい?ははっ」
笑いが止まらない。
琉夏ってこんなに笑わせてくるキャラだっけ。
笑い転げている俺を満足そうに見下ろして、頬杖をついて猪口を傾けている。
お行儀は悪いが、様になってる。つい見惚れる。
「西嶋さん、よく笑うな」
「ふふっ、こんなんじゃない、はずなんだけどねぇ……今日はちょっと……くくっ」
「お待たせいたしました」
琉夏の話がオチたところで、店員が来て折よくウナギの蒲焼が饗された。
「ふっ……失礼。ありがとうございます」
涙を拭いながら礼を言って、料理を受け取った。
串に行儀よく並んで刺された鰻は、焼き色も美しく香ばしい。
「待ってました待ってました。……いただきます」
琉夏が改めて両手を合わせて蒲焼に箸を伸ばした。
身がほろりとほぐれて一かけら、琉夏の口に消える。
「ふふっ。……あー、久しぶりに食うな……うん、酒がすすむ」
食レポをする気はないけれど、嫌味でなくほどよい脂の乗り具合で、口の中で厚い身がふわっととける。
「美味しいねぇ」
「うん。美味いな」
しばし夢中になるあまり無言で箸をすすめていた。
「なぁ、山椒取ってくれ」
「はい。……あぁそうだ、忘れないうちに言っておくよ。琉夏、君、明日時間はあるかい?」
琉夏の靴を買いに行きたいんだった。
今のままでも構わないけれど、やっぱり琉夏のための物を用意したい。
「明日一緒に買い物に行きたいんだけど」
「残念。忙しいんだ」
琉夏は明らかなウソで俺の誘いをやり過ごそうとする。
「ちょっとくらい付き合ってくれてもいいだろう?」
「いや……」
琉夏が何か断りの文句を言いかけたが、聞き覚えのある声が邪魔をした。
「槙野さん待ってくださいよぉ」
「は?神崎」
ここは斜めに廊下に面したスペースで、半個室のようになっているのだけれど、後ろの通路から聞き覚えのある声がして、思わず二人で顔を見合わせる。
「遅い」
続いた声も知った声だった。
俺がそっと通路に顔を出すと、思った通り、槙野と神崎だった。
「ん。西嶋?意外なところで会ったな」
「これは二人お揃いだね。帰るところかい?」
「そうですよー。あれ、西嶋さんと早野さんって、あんまり見ない組み合わせですね。実は仲良かったんですか?」
「いいや」
「ちょっと琉夏、即答しなくてもいいじゃないか。……二人とも、急いでなければちょっとだけこっちで話していかないかい?」
槙野と神崎を巻き込めば、琉夏も断りづらいだろ?
腹黒?やだなぁ、そんなこと言わないでよ。人心掌握術って言ってよ。
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2021/08/29追記
ラストまで公開準備ができました。一日一頁公開します。
待ってくださった方がいらっしゃったら、本当に本当にありがとうございます。
そうでない人にも読んでいただけたら、これ以上嬉しいことはありません。
では、引き続きお楽しみください。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
読んでいただいたところで大変申し訳ないのですが、作者遅筆につきこれ以降の話はまだ執筆中です。
書き上がりましたら、続きをアップいたしますので、よろしければまたお付き合いいただけると嬉しいです。
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