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2-けもの道(3)
うー……ん、このマンションかな?
昨日琉夏から自宅の住所を教えてもらった。
それと地図アプリを駆使して、たどり着いたのは白亜の豪邸……ではもちろんなくて、静かな佇まいの、普通のマンションだった。
インターホンで琉夏を呼び出すと、なぜかしばらく待って、声が聞こえた。
「すんません、お待たせしました。開けたんでどうぞ」
「ありがとう」
この間はなんだったんだろう。部屋の片付けでもしてたのかな。
琉夏の部屋って散らかってそうだな。それも派手に。
ベッドの上に脱いだ服が放り出されてたり、テーブルの下に読みかけの本か雑誌が落っこちてたり、さ。
ふふ、ソファの上に毛布とかあるかも。
いかにも昨晩遅くまで映画観てました、って言いたげに丸まってそう。
あー……。
どうしよう。片づけてあげたい。
『勝手なことすんじゃねぇよ』とか言ってふくれっ面した琉夏をソファに追いやって、服はまとめて洗濯機に入れて。
床に落ちてた本を拾おうとしたら、『それはいいんだよ!』とか言って慌てた琉夏に横から奪われたりして。
洗濯機回してる間にリビングに戻ると、琉夏がソファで毛布にくるまって眠くなっちゃってて。
その傍にそっと座って……ふふっ、楽しくて妄想が止まらないよ。
さて、現実はどうなのかな?
エレベーターの行き先は六階だ。
りん、と軽いベルの音と共に到着して、琉夏の部屋……六〇三号室を探す。
「泊めろよー! 本気で困ってんだぞ!」
「だから、うちじゃなくて真冬んとこ行けっての」
ん? 琉夏の声がしたね。
ああ、部屋の前で知らない人と何かやってる。
「真冬なんかより琉夏の部屋がいいんだよ!」
「勘弁しろよ……あ、西嶋さん。悪い、ちょっとやかましくて……ほら、客来たから秋帰れ」
琉夏は俺に軽く頭を下げると、その見知らぬ男を追い返そうとする。
「冷たいなー。ちょっと前までは可愛くて、『あーちゃん、あーちゃん』って呼んで一所懸命僕の後ろ付いてきてたのに」
「なんだそれ。何年前だよ」
訝しげに首を傾けた琉夏に、男は飄々と言った。
「二十五年前の話だな」
「帰れ!」
琉夏怒ってる。初めて見たけど、怒ってるとこも魅力的だな。
ちょっと気だるげでさ、いい加減にしてくれよって全身で言ってる。
ああ、甘えたい。怒ってる琉夏の懐に入ってさ、頬にキスして抱きつきたい。それで、勢いを削がれた琉夏にため息をつかれたい。
そんなの、過去の恋人にもやったことないけど、琉夏には甘えてみたい。
琉夏にだったら頭撫でられてもいい。
「だから帰るところがねえっつってんだろうが!」
「あぁ!? 逆ギレか!?」
琉夏が声を荒げると、男はすぐに琉夏を宥めにかかった。
「あー嘘嘘嘘、怒ってないから琉夏、中に入れてよ。ほら、お客さんいつまで待たせんの。失礼でしょうが」
「秋のせいだろ。……すまねぇ、まだ散らかってっけど、上がっといてくれ。槙野さんと神崎はまだ来てねぇよ」
「いいのかい? じゃあお邪魔するよ」
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