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2-けもの道(4)
でも、さすがに素通りはないよな。
「なぁ琉夏、こちらの方は? ……失礼しました、俺は琉夏くんの同僚で、西嶋明人といいます」
琉夏と言い争っていたのは、琉夏と年が近そうな細身の男だった。
薄手のロングコートを着ているけれど、その上からでも、極めてスタイルが良いのが見てとれる。
細身な分、顔も小さくて、全体の均整が絶妙にとれており、素晴らしく美しい。
「あー……、その……、兄、の秋、だ」
琉夏がなぜか渋々と紹介する。
お兄さんか。琉夏とは印象が違ったから友人かなと勝手に思っていたけど、言われてみれば、顔の輪郭とかそっくりだ。
初対面であろうとなかろうと、誰にでも無愛想な琉夏とは対照的に、柔らかくて親しみやすい表情をしてる。
「どーも、初めまして、早野秋です。琉夏がお世話になってます。愛想のない弟ですけど、これからもよろしくしてやってください」
「いえいえ、こちらこそ仲良くしてもらってますから」
正確には、仲良くして『もらいますから』だけどね。
はは、俺のセリフを聞いた琉夏が秋さんの後ろで小さく舌出して、冗談じゃねぇって顔してる。
「おい、もういいだろ。西嶋さんはさっさと中入れ。秋は帰れ」
琉夏が急かすけれど、素性を知ったらこのままにしてはおけない。
琉夏のお兄さんってことなら、仲良くしておいて損はないだろ?
「すみません、さっきの話聞いちゃいましたけど、秋さん、『帰るところがない』ってどうなさったんですか?」
聞いたら、秋さんが『よくぞ聞いてくれました!』という目で話してくれた。
「それが、酷いんだよぉ……。昨日から仕事で外出してて、一晩泊まって今朝帰ってきたんだけどね、僕のマンションの近くまで来たら、救急車とか消防車とか止まってて、大騒ぎしてるの。何かなーって周りに集まってた人に訊いてみたら、さっきまで火事だったって言うんだよ! そんなの聞いたら、え、僕んち大丈夫かなって心配になるじゃない。そのまま詳しい話聞いてたら、どうも焼けたのは二部屋だけで済んだらしくて。あー良かった良かったって僕も部屋に帰ろうとしたら、途中で消防士さんに止められてさぁ」
『誰でもいいから僕の話を聞いてくれ』モードになった秋さんの舌は止まらない。
「え、ちょっと、疲れてるから早く帰らせてよって思って、事情を聞いたらとんでもないことになってて。燃えたのは二部屋でほぼ全焼っていうのは野次馬さん達から聞いた通りだったんだけど! 出火したのは僕んちの下の部屋で、全焼したのはその火元の部屋と、真上の僕の部屋だったんだよぉ!」
猫みたいに大きくて丸い目を潤ませて、秋さんがヒートアップする。
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