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2-けもの道(10)

「……ん、分かった。大丈夫か? 迷うようならまた連絡くれ」 いつの間にかキッチンで話していた琉夏が、通話を切った。 「槙野さんと神崎、もうすぐ着くとさ。せっかくだから、二人が来てから飯温めるわ」 キッチンの扉を開けて、琉夏がそう言って寄越した。 「そうだね、それがいい」 俺が頷くと、秋さんが丸い目をさらに丸くした。 「琉夏、三人もお友達がいるの? あの琉夏が? どうしちゃったの? 更正したの?」 琉夏は面倒くさそうな顔で答える。 「お友達がいねぇ訳じゃねぇが、今日の三人は誰一人お友達じゃねぇ。上司と先輩と後輩だ」 まったくもう。面倒くさがるってどういうことだい? 「寂しいな琉夏。せめて俺くらいはお友達にしてほしいな」 言ってみたら、琉夏が大袈裟に顔をしかめた。 「駄目だダメだ、あんたは元凶だからな。そもそも誰のせいでこの俺がスー……何でもねぇ。やっぱ飯の準備してくる」 スーツと言いきらずに途中で口をつぐんで、琉夏はキッチンに逃げようとする。 スーツ着てること、秋さんに知られたくないんだな。 きっと、秋さんもスーツ推進派になってただ単に面倒くさいから。なあ、理由はシンプルにそれだけだろ? 来週にはなし崩し的にさりげなく、スーツ着るのを止めたいんだろ? だめだよ。悪いけど琉夏、俺は利用できるものは全て利用させてもらうよ。 「でも琉夏、あのスーツ着心地いいだろ?」 俺がそう言ったら、振り返った琉夏から余計なことを言うなという目で睨んでもらえた。ふふ。 「ちょっと琉夏、スーツって何」 秋さんが琉夏の腕を掴んで引き留める。 さあ、尋問の始まりだ。 「あ? あー……、いわゆる背広だな。そういえば秋、去年の春先に仕事で着てたよな。新社会人向けイベントだっけ? 写真送ってよこしたじゃねぇか。年齢詐欺つって。あれは似合ってたな」 琉夏は苦し紛れに逃げの一手を打つ。秋さんの話にすり替えようとしてる。 でも残念。そんな手に簡単にのる秋さんじゃなかった。 「僕のことはどうでもいいの。あの時琉夏も真冬もノーリアクションで僕寂しかったけど、今は僕じゃなくて琉夏の話をしてるの」 秋さんがちらっと俺を見たから、俺は回り込んでキッチンのドアを閉めて、琉夏の退路を断った。 さっき敵対宣言されたばっかりだけど、今は話が別だ。 お互い利害は一致した。無言で一時的に秋さんと同盟を締結する。 追い詰められた形になった琉夏は、口許を一文字に引き結んで、思考をめぐらせてる。 ふふ。焦り顔も素敵だよ、琉夏。

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