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2-けもの道(11)

「琉夏、もしかしてスーツ着て会社行くようになったの?」 「え、いや、それには事情があってだな」 琉夏らしくもなく、もにょもにょと言い訳してる。 「事情? 会社員がスーツ着るのにどんな特別な事情がいるのさ? そんなのいいからはっきり答えてよ、着てるのか着てないのか」 「その、着たくて着てるわけじゃないっていうか、本意じゃないっていう「ピンポーン!」」 琉夏が見苦しく足掻いていると、タイミング悪くチャイムが鳴った。 逃げ道を求めてとっさに琉夏が動こうとしたけれど、秋さんの方が早かった。 琉夏を視線で押し止めたまま、すっと手をのばしてインターホンのボタンを押す。 『遅くなりましたー!』『俺も来たぞー』 能天気に明るい声は神崎だ。もう一つ琉夏に似て低い声の人が真冬さん、なんだろうか。 秋さんが開錠ボタンを押した。 「開けたよ。どうぞ」 さて、ここで俺が、事実をぶちまけちゃうのは簡単だけど、やっぱりそれじゃつまらない。 琉夏自身に再認識してもらうためにも、琉夏の口から白状させたい。 どうしようか。 「ねえ琉夏、早く観念してよ。真冬に力ずくで強引に吐かされるより、優しい僕に素直にゲロッちゃった方がよくない?」 なんだか警察の取り調べ室にでもいるような気分になってきた。 目が笑わない秋さんの微笑みが、刑事のそれに見えてくる。 「話すことなんかねぇよ。俺の事だ、秋にも真冬にも関係ねぇだろ」 お。琉夏が開き直った。 しかし、秋さんはそんな弟を見て笑った。 「あのねぇ。琉夏も分かってると思うから、今さら言うのも野暮だけど、僕も真冬も末っ子のお前が可愛くてしょうがないんだよ。そんな弟が、毎日てきとーなカッコして仕事行ってるんだ、気にかけないわけがないだろ? 思い直して、ちゃんとスーツ着てるかもなんてことになったら尚更だ。気になるだろ。つーか、琉夏にはスーツ絶対似合うに決まってんだ、今すぐ着て見せろ」 話しているうちに、秋さんが心の中でだんだん前のめりになっていくのが、手に取るようによく分かる。 「おい、落ち着けって、な? 秋? 俺だって二十八だ、今更スーツ着たって初々しさもねぇし、面白くもなんともねぇだろ」 いや、俺は大いに興味あったけどなぁ。 ほら、秋さんもそう言ってる。 「面白いかどうかは、実際見てから僕が判断するものでしょ? さ、いいから。琉夏、早く。早く着て」 そんなやり取りを聞いていると、玄関からガタガタと物音が聞こえてきた。 「邪魔するぞ」 「お邪魔しまーす!」 槙野(おまけで神崎)だ。 それと……。 「おっ! おい琉夏! お前スーツ着るようになったのか?!」 着いて早々に、真冬さんにばれたみたいだ。 廊下の向こうからドアを開ける音と歓声が聞こえてきた。 「あーぁ」 秋さんは、ため息をつきながらもにやにやするという、難易度の高い芸当を見せながら琉夏の腕を掴む。 俺も、琉夏自身に白状させることができなくて、残念だ。 「ばれちゃったね。さ、行こうか」 往生際悪く引き摺られながら、琉夏が嘆く。 「なんで、家主の俺の顔見るよりも先に私室覗いてんだよ……躾がなってねぇだろ……」 「躾がなってないのは琉夏、お前も一緒だろ? メッセージを無視したりして。この機会に、もう少し兄……ていうか僕のことを敬いな」 「はぁぁ。めんどくせー……」 「琉夏!」 琉夏と秋さん、仲良いんだな。 いいな。羨ましい。

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