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3-断崖絶壁(5)
三日め。アプリが完成した。
「槙野、お待たせ。ツールできたぜ」
「そうか。ありがとう。早かったな」
完成品を入れたUSBメモリを槙野に渡して、任務完了だ。
「ところで、なんで早野はそんなに不機嫌なんだ?」
二人で仲良くやってたんじゃないのか、と槙野が聞いてきた。
良い質問だ。俺の後ろにいる琉夏はむっつり黙り込んでいる。
「それが分からないんだよ」
「は?」
槙野が目で、どういう意味だと問うてくる。
俺は後ろを振り返って、琉夏の顔を覗きこんだ。
「ねぇ琉夏、何を怒ってるんだい? 琉夏のおかげで完成したんだよ? もうちょっとにこにこしておくれよ」
「はん。やなこった」
どうしたんだろう、琉夏。
「ああ、そうか、完成してしまって寂しいからむくれてるのかい?」
「んなわけあるか、たわけ。めんどくせぇのが終わってせいせいしてるわ」
相変わらず憎まれ口を叩く琉夏だ。
「二人で喧嘩したわけでもないんだよな?」
「う、うん。もちろんだよ」
槙野に問われて、俺は戸惑いながらも頷いた。喧嘩はしてない。
「仲が悪いわけじゃないなら、二人に頼みたい仕事があるんだ。……後で打ち合わせでもさせてくれ。スケジュールは入れておくから」
◇ ◇ ◇
「は、俺がプロマネ!?」
驚きのあまり身を乗り出した琉夏は、冗談ですよね? と声を出せずに口だけ動かした。
「もちろん冗談じゃない。間をいろいろすっとばしてはいるが、今回の規模であれば早野の能力で充分カバーできると俺が判断した」
槙野はテーブルの上に置いていた華奢な手指を組み替えて、問題あるか? と琉夏に問い返した。
「い、いや、問題はないですが……」
「大丈夫だよ琉夏。俺がサポートでいるんだから。分からないことは全部フォローするし」
琉夏は図るような目で槙野を見つめている。
「めんどくさい」
槙野が唐突に口を開いてそんな事を言い出すから、琉夏も俺も一瞬呆気にとられた。
「……というような理由で辞退することは許さない。その場合はサポートを外して一人でやってもらう」
「いえ、言わないです」
琉夏が苦笑いして、その場の空気が少し緩んだ。
「琉夏、ほんとに心配しなくて大丈夫だよ。俺が手取り足取りサポートしてあげるから」
「西嶋、言外にハートが飛び交ってる」
槙野がちょっと笑った。
「槙野はすぐ気づいてくれるのに。琉夏ったら無反応じゃないか。……槙野、こんな鈍くても大丈夫かな。今からでも、俺と琉夏を入れ替えた方がいいんじゃないか」
俺がそう言って茶化すと、少しリラックスして座り直した琉夏が言った。
「ざけんな。今の西嶋さんの下に就くくらいなら、俺がプロマネやる」
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