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4-下り坂(5)
「ごちそうさま」
「お粗末様でした」
……食べ終わった。
一言も感想を聞かずに食べ終わってしまった。
こうなったら自分から訊くしかない。
「な、なあ」
食後のお茶を飲みながら、恐る恐る琉夏に訊く。
「あ?」
「しょうが焼き大丈夫だった?」
「は?どういう意味だよ」
「琉夏がしょうが焼き食べた時、ちょっと笑ってたのが気になってさ」
「え、俺笑ってたのか?」
「うん」
「……しょうが焼き、好きだから。それに思ってたより美味かったから、じゃねぇか」
「そ、そっか。美味かったんだ。良かった……」
『美味かった』と琉夏が素直に言ってくれたのが、有頂天になりそうなくらい嬉しい。
やっぱりおかしい。
こんな予定じゃない。
俺は琉夏の胃袋を掴んでやるつもりだったんだ。
それなのに、なんで俺が琉夏のそっけないコメントで尻尾振りたいくらい喜んでるんだ。まるで神崎だ。
逆に俺がハートを掴まれてんじゃないか。
俺の様子が、おかしい。
「えと、何が一番美味しかった?」
えと、って。誰だお前。ぶりっ子してる場合じゃないだろ。そんな気持ちの余裕ないだろ。
まさか無意識に可愛い子ぶったのか?
ああ、もう。重症だ。
「何がって……、やっぱりメインの肉じゃねぇか。今まで食べたしょうが焼きの中で一番柔らかくて美味かった」
本当に!? そんなに美味しかった!? 口元が緩む。
「ふ。なんでそんなに嬉しそうな顔すんだよ。素人の評価だぞ」
「いや、だって。琉夏のために作ったんだもの。琉夏に誉められたら嬉しいよ」
琉夏が声をあげて笑った。
「おい、両親に食べさせるための練習なんじゃなかったか?本音が出てるぞ」
あ。しまった。
でもいいや。本当のことだし、琉夏も悪い気はしてないみたいだし。
「嘘はついてないよ。両親に食べさせたいのは本当だ。でもまあその……それと同じくらい琉夏にも食べてもらいたかった、のが本音だけど」
そう白状すると、頬杖をついた琉夏が満足そうに微笑みながら、俺に訊いた。
「なんで俺に食べさせんの? 一緒に住んでるやつがいるんだろ? わざわざ腰の重い、しかも断られるリスクが高い俺に頼まなくたって、良かったんじゃねえのか?」
琉夏は言った。
いけしゃあしゃあと言った。この野郎。
ひょっとして、喧嘩を売られているのかな? 買ってあげないといけないヤツなのかな?
言っておくけど俺、見た目より気が短いんだからな。
「おい、明人先輩よ。一人涼しげに澄ましてないで、教えてくれよ」
俺は思わずテーブルの縁を掴んで気持ちを抑え込みながら、琉夏に引きつった笑みを返した。
「琉夏? 君は僕にそんなことを訊く前に、答えなきゃなんないことがあるだろ?」
琉夏は余裕の笑みを浮かべている。なんで俺だけこめかみ引きつらせてるんだ?
「俺が? 何のことだっけ。悪いがちっと思い出せねぇな」
なんなんだよ琉夏! 俺をからかってそんなに楽しいかい?
楽しませてあげたいのはやまやまなんだけど、もうそろそろ我慢も限界だ!
このお茶を飲み終わったら、全部答えてもらうからな!!
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