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5-我が家(2)
「お世話になります。よろしくお願いします」
結局雨には降られずに客先に着くことができた。
ミーティングルームに通されて、名刺交換。
「では、早速ですが、内容に入らせていただきます」
世間話が嫌いな琉夏が、さっさと話を始める。
話の合間に俺も口を挟むけど、八、九割方琉夏が進めた。
相手先は、今回三人だ。
上から、豊田さん、前原さん、中野さん。全員男性だ。
豊田さんは五十代くらい、前原さんはたぶん俺と同じくらいの年で、中野さんは二十代半ばくらいに見える。
琉夏がてきぱき話してくれるおかげで、俺はだいぶ楽をした。隙を見て口を挟まないと、俺の出番はないくらい。
うー……ん。
前原さんの視線が刺さる。
爽やかで清潔感があって好感が持てるお兄さん風なんだけど、琉夏じゃなくて俺相手に話してくる。
これはなんだ、俺は狙われてるのか。
この見てくれだから、外部の人と話すとたいてい、多かれ少なかれ好奇の目で見られるんだけど、前原さんのは的確に刺さってくる。
そしてメインで説明してる琉夏を無視して、俺に質問してくる。
琉夏のセリフじゃないけど……めんどくせぇな。
ちらっと隣を見たら、琉夏も気づいて面白くなさそうな顔をしてる。
そりゃまあ、ね。話しかけてる相手が余所向いてるんじゃ話しがいもないってもんだろ。
前原さんが俺に話をふるたびに、琉夏へ話を戻す手間が発生する。
はあ。
俺は珍しく余所行きの顔をしてる琉夏を堪能したいのに。
きりっとしてて、頼れそうで、実際頼もしくて、でも、普段の琉夏を見続けている俺には、若干の気怠さもあって。
この気怠さに気づいているのは絶対俺だけだ。
話の接穂をさぐる瞬間に、ちらっと気怠さが片頬によぎる。たまんない。
変な三角関係が成立した。
俺を見てくる前原さんと、琉夏を見つめる俺と、前原さんを軽く睨む琉夏の三点だ。
不毛。俺は絶対琉夏から目を逸らさないから、前原さんのは不毛なのに。
そろそろ、あ、こいつ脈ないな、ってさとってくれないかな、前原さん。
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