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第16話
「側にいてくれ・・・あちら側なんかに行かないでくれ、化け物なんかにならないでくれ・・・オレを置いて行くな」
友達に抱き締められる。
抱き締められる。
泣きながら友達が僕を抱きしめてくるのだ。
その心地良さに吐息をついてしまいながら、でも、苦しくなる。
だって。
僕には。
まだお前は友達なんだ。
抱かれて貫かれて、その身体を求めはしても、化け物が怖くてしがみついてしまっても。
そんなの。
そんなの。
急に変われるはずがない。
いや、でも、友達に尻を突かれて喜ぶ僕はもう普通じゃないのか?
「行かないでくれ。行ってしまわないでくれ」
友達が泣きながら僕を抱きしめる。
死体を喰う化け物達の仲間入り。
それは怖い。
怖かった。
「化け物になんか・・・なりたくない」
僕も泣いた。
「それは見方によるぞ。俺たちだって家畜の死肉を喰うやろが。アイツらかて、ちゃんと文化もあるし、何度もいうけど、嫁に来たあんたをホンマに大事にするでぇ。人間なんかよりずっと。普通の人間とは違う風になってもうた身体をかかえて・・・人間から異分子として扱われるよりそっちのがええんやないか」
男はやけに化け物を推してくる。
でも、男の言う意味もわかった。
抱かれることを求め続ける身体を持って生きていくのは、マトモな社会からは疎外されることだと。
一人では足りず、男を求め続けるモノはもう。
マトモじゃない。
少なくとも僕が今いる社会では。
僕がいたい社会では。
そして、そんな僕を抱きたがるような男達もマトモじゃないだろう。
マトモじゃない者としてマトモじゃない者に抱かれ続ける。
普通に生きて来た僕には辛すぎることだ。
でも、もうマトモに生きられない身体なのはわかった。
もう、欲しがっている。
男の身体を。
この身体の奥まで咥えこみたい。
たくさんたくさん欲しい
その淫らさに泣いた。
でも。
行きたくない。
マトモじゃいとはされないだろう、
向こう側になんか。
化け物の側になんか。
「向こうは・・・そんなに悪いもんやないぞ」
男は初めて優しいとさえ言える声で言った。
そうなのかも、と思った。
でも行きたくなかった。
この世界にしがみつきたかった。
「嫌だ!!行くな!!」
抱きしめて叫んでくれる友達。
この世界に引き止めてくれる友達。
僕を見捨てないという友達。
これからの狂った夜の中で、この手を繋いでくれようとする友達。
「お前は・・・友達だ・・・大事な・・・友達だ。」
僕は泣く。
狂った夜にお前をまきこみたくなんかない。
巻きこんだのは僕だけど。
でも、マトモじゃない夜のマトモじゃない人間達の中に一人では行けず、そして化け物達のところへも僕は行けない。
僕は。
卑怯だ。
泣きながら縋る。
離さないで欲しくて。
「これかも、ずっと友達だ。それでいい・・・お前がそれでいて欲しいんなら。どんなに抱いても・・・・・友達だ。だから、だから、行くな」
友達は。
優しい男は。
僕にそう言った。
僕に全てをくれようとしていた。
身体を変えられた僕とは違い、お前は淫らな夜から逃げられるのに。
愛しい普通の社会に帰れるのに。
「僕は・・・化け物のところに・・・行きたくない」
僕はそう言った。
そう決めた。
抱きしめてくれる腕がある。
この手が僕を繋いでくれる限り、この世界にいたいと思った。
人間でいたいと思った。
それの、本当の意味もわかっていないのかもしれないけど・・・
僕は友達と抱き合う。
コイツといたい。
いたいんだ。
「わかった」
男は頷いた。
「全部はあんたの意志次第や」
男は僕のすべきことを教えてくれた。
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