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第17話

 「迷うな。迷ったらあんたは死ぬ。あんたはもう一度拒否したらいい。昨夜やったみたいな拒否を。まよったら、中途半端な状態でヤられ続けて、あんたはヤり殺されるか、奴らの花嫁になる。きちんと拒否したらヤツは帰ってくれる。心からの拒否だ。人間とは違うからな、ちゃんと奴らは拒否を受け入れる。悲しむやろうけどな・・・あんたのために巣も何もかも用意しとったやろうに。屍肉食いはホンマに愛情深いんやぞ」  男の指示はそれだけだった。  ええ。  寺の息子さんだって、読経とか、お札位用意してくれたのに。  僕はなんかガッカリした。  「御札とか、呪文とか、儀式とかないの?」  友達も言う。     術でたたかうんじゃないの?  専門家なんだろ?  「アホやろ。んなもん効くわけがないやろ。あんなんはあくまでも、ここはお前らの場所じゃないよ、という警告以上の意味しかないわ。まあ、あちらの連中は場を重んじるから、ある程度の効果はあるけどな。あくまでも、奴らの道義的なものに訴える意味合いしかないで。今回は正式な嫁取りや。ちゃんと手順を踏んできている以上、向こうは引かへんやろ。昨夜は拒否らしきもの、と、場に戸惑って退いてくれたけどな」  男は鼻で笑った。  拒否らしきもの?  ちゃんと手順を踏んでる?  僕はちゃんと拒否したし、手順て何?  最初からいきなり、身体を舐めまわされたんだけど!!  「・・・・・・最近、玄関の前に動物の死体がなかったか?」   男に聞かれる。  そう言えば、化け物に襲われた前の日、アパートの門の前で犬が車に轢かれた死骸があった。  保健所に連絡した。    「結納品や。奴らが置いた後に車に轢かれたんやろーな」  男が言った。  「人間の死体が好物やけど、まあ、そんなに簡単にはないからな。最近は燃やすし」  男は頷く。  はぁ?  はぁ?  あれは結納品・・・。  「ちゃんと結納品を納めて、返されることがないから受け入れたということで、夜這いにきたんや。当然のことや。3日間朝までいたら婚姻成立。昨日は途中で帰ったからな、変則的になるけど、今日は朝までおることで成立にするやろ」  男の言葉にキレる。  そんな勝手なルールは知らない。  なぜ僕がそんなルールに従わないといけないんだ。  「昔、人間との間に奴らが取り交わしたルールに基づいて奴らは動いてるんや。ルールを忘れたのも、伝えてなかったのも、人間側の手落ちや。向こうはルールを守り続けているんや」  男は言い切った。  しかし、この人。  向こう側ばかり庇う。  「拒否だってしてる!!ずっとしてる、嫌だって言ってる!!」  僕は叫ぶが、どこかでそれが違うのもわかる。  本当に気持ち良かった。  とことん気持ちよかった。  快楽に飲み込まれた。    アレはひたすら僕を気持ち良くするためだけに動いていて、身体を作り替えることに全力で。    それに飲み込まれた。  壊れそうになる位に。  壊れたなら、全力でその快楽を受け入れて、ソレを欲しがるだけの生き物になるんだろう。  ソレが奴らの花嫁なんだろう。  「本気で拒否しろ。捜すんや。あんたがここに、この世界にいたい理由を全力で。そして、わかって貰え。きちんと振って、諦めてもらえ・・・」  男は言った。  結局。  男は何もしないのだとわかった。  それを言うだけなのだと。  僕はため息をつく。  友達もため息をつく。  「なんか不服かいな。俺の助言がなかったらあんた半端で殺されるか、花嫁になっとったくせに」  それは、本当だ。  「あちらはあんたを本気で求めてくれてるんや。あんたも本気で拒否しろ。あちらにはズルサなんかないんやからな」  男の言葉に胸がいたい  こんな僕を、これから先、色んな男を求めるだろう僕を受け入れてくれる友達にさえ、僕は友情以上を与えていない。  僕は狡い。  「・・・・・でもあんたには・・・どんなあんたでもかまわへんいうてくれる人がおる。おるんやから。そのためだけに拒否してみせろ」  男の声は優しかった。  とても優しかった。   切ないくらいに。   「でもあちらさんも、夜這いしに来たあんたに、他の男が挿れてても気にせんくらいにあんたに夢中やねんけどな」  そして。  夜が来る。    そして、ヤツがやってくる。        

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