17 / 26
第17話
「迷うな。迷ったらあんたは死ぬ。あんたはもう一度拒否したらいい。昨夜やったみたいな拒否を。まよったら、中途半端な状態でヤられ続けて、あんたはヤり殺されるか、奴らの花嫁になる。きちんと拒否したらヤツは帰ってくれる。心からの拒否だ。人間とは違うからな、ちゃんと奴らは拒否を受け入れる。悲しむやろうけどな・・・あんたのために巣も何もかも用意しとったやろうに。屍肉食いはホンマに愛情深いんやぞ」
男の指示はそれだけだった。
ええ。
寺の息子さんだって、読経とか、お札位用意してくれたのに。
僕はなんかガッカリした。
「御札とか、呪文とか、儀式とかないの?」
友達も言う。
術でたたかうんじゃないの?
専門家なんだろ?
「アホやろ。んなもん効くわけがないやろ。あんなんはあくまでも、ここはお前らの場所じゃないよ、という警告以上の意味しかないわ。まあ、あちらの連中は場を重んじるから、ある程度の効果はあるけどな。あくまでも、奴らの道義的なものに訴える意味合いしかないで。今回は正式な嫁取りや。ちゃんと手順を踏んできている以上、向こうは引かへんやろ。昨夜は拒否らしきもの、と、場に戸惑って退いてくれたけどな」
男は鼻で笑った。
拒否らしきもの?
ちゃんと手順を踏んでる?
僕はちゃんと拒否したし、手順て何?
最初からいきなり、身体を舐めまわされたんだけど!!
「・・・・・・最近、玄関の前に動物の死体がなかったか?」
男に聞かれる。
そう言えば、化け物に襲われた前の日、アパートの門の前で犬が車に轢かれた死骸があった。
保健所に連絡した。
「結納品や。奴らが置いた後に車に轢かれたんやろーな」
男が言った。
「人間の死体が好物やけど、まあ、そんなに簡単にはないからな。最近は燃やすし」
男は頷く。
はぁ?
はぁ?
あれは結納品・・・。
「ちゃんと結納品を納めて、返されることがないから受け入れたということで、夜這いにきたんや。当然のことや。3日間朝までいたら婚姻成立。昨日は途中で帰ったからな、変則的になるけど、今日は朝までおることで成立にするやろ」
男の言葉にキレる。
そんな勝手なルールは知らない。
なぜ僕がそんなルールに従わないといけないんだ。
「昔、人間との間に奴らが取り交わしたルールに基づいて奴らは動いてるんや。ルールを忘れたのも、伝えてなかったのも、人間側の手落ちや。向こうはルールを守り続けているんや」
男は言い切った。
しかし、この人。
向こう側ばかり庇う。
「拒否だってしてる!!ずっとしてる、嫌だって言ってる!!」
僕は叫ぶが、どこかでそれが違うのもわかる。
本当に気持ち良かった。
とことん気持ちよかった。
快楽に飲み込まれた。
アレはひたすら僕を気持ち良くするためだけに動いていて、身体を作り替えることに全力で。
それに飲み込まれた。
壊れそうになる位に。
壊れたなら、全力でその快楽を受け入れて、ソレを欲しがるだけの生き物になるんだろう。
ソレが奴らの花嫁なんだろう。
「本気で拒否しろ。捜すんや。あんたがここに、この世界にいたい理由を全力で。そして、わかって貰え。きちんと振って、諦めてもらえ・・・」
男は言った。
結局。
男は何もしないのだとわかった。
それを言うだけなのだと。
僕はため息をつく。
友達もため息をつく。
「なんか不服かいな。俺の助言がなかったらあんた半端で殺されるか、花嫁になっとったくせに」
それは、本当だ。
「あちらはあんたを本気で求めてくれてるんや。あんたも本気で拒否しろ。あちらにはズルサなんかないんやからな」
男の言葉に胸がいたい
こんな僕を、これから先、色んな男を求めるだろう僕を受け入れてくれる友達にさえ、僕は友情以上を与えていない。
僕は狡い。
「・・・・・でもあんたには・・・どんなあんたでもかまわへんいうてくれる人がおる。おるんやから。そのためだけに拒否してみせろ」
男の声は優しかった。
とても優しかった。
切ないくらいに。
「でもあちらさんも、夜這いしに来たあんたに、他の男が挿れてても気にせんくらいにあんたに夢中やねんけどな」
そして。
夜が来る。
そして、ヤツがやってくる。
ともだちにシェアしよう!