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一章
「…………暇だ。暇すぎる。」
薄暗い店内で一人呟く。
祖父の代から続く時計屋を継いでから4年。
本当は父が継ぐはずだったのに、やりたくない。の一点張りだったそうで、俺が高校を卒業してからは80歳を超えた祖父と二人で時計屋を営んできた。そんな祖父も2年前に亡くなり、今は一人で店を営んでいる。
母は無理をしなくていいと言ってくれたが、それではせっかくここまで続けてきた祖父の気持ちが浮かばれないような気がするし、共に働いた2年間が無意味になってしまう。
と、言うのは建前で、本当のところこれ以上待遇の良い職場なんてないというのが本心だ。
昼前に開店して夕方過ぎに閉店。基本客は来ないので、勤務中はゲームやスマホをいじって時間を潰す。最近はカウンターにタブレットを隠してネトフリ三昧だ。
業務らしい業務と言えば、時計の仕入れや手入れ、あとは売り上げ管理くらい。
しかも時計の手入れ以外は、気づいた時にしかやらないからほとんど時間を潰しに来ているようなもの。
こーんな舐めた態度で仕事してりゃ、転職するにも体が拒否する。
それでもそんな生活が2年、ましてや毎日となると飽きてくるわけで。
誰とも話さずに1日を終えるのが数ヶ月続くと、独り言も酷くなってくる。
「……ん〜〜久しぶりに新商品も仕入れたしなぁ……。
掃除でもするかなぁ。」
よいしょ。と重い腰を上げてカウンターから出た。
毎日座りっぱなしの腰は凝り固まっていて、ポキポキと小気味良い音を鳴らす。
うんと伸びをした時、ふと目線の先にある懐中時計と目が合った。
「あれ、止まってないか?」
ショーケースから取り出すとやはり止まっている。
おかしいなぁ昨日調整したばかりなのに。
上下に振ると、カチカチと中の機械が重力に合わせて動いているのを感じる。
しばらく続けて、こんなもんか。と現在時刻に合わせて再びショーケースに戻した。
「さて、掃除するかね。」
店の戸を開けて、籠った空気を外へ追い出した。
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