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恐る恐る、声のした方を見ると1人の青年が立っていた。 「……お前、清治(きよはる)か?こんなところでどうした。立てるか?」 すっ、と手を差し伸べてくれたが、怖くて握ることが出来なかった。もたれていた塀に手をついて、なんとか立ち上がる。 「お前、洋装なんて持ってたのか。珍しいな。」 じろじろと俺の全身を見る視線が耐えられなくて、男をすり抜けようとすると、手首を掴まれた。 「待って。俺、ずっと探してたんだ。なんで何も言わずに行っちゃったんだよ。」 すぐに振りほどこうとしたが、男の必死な目を見て、それを諦めた。 「えっと、あの…、すみませんが俺、清治じゃないです…。」 「えっ。」 「いやーーごめんね!勘違いしちゃって!」 「いえ、こちらこそ……。黙ったままで、すみませんでした。」 「いいのいいの。で、帰り道が分かんないんだっけ?」 「………はい。」 小道を抜けた大通りを案内されて歩く。 すっかり空は暗くなり、外灯の灯りがぽつりぽつりと間隔を開けて照らされている。 歩き慣れたアスファルトは無く、どこまでも砂利道が続いていた。 「住所どこ?また迷うだろうから送ってあげるよ。」 「あ、この近くの商店街なんですけど。」 「商店街?」 男は不思議そうな顔をしてから、あははっ、と声を出して笑った。 「この近くに商店街なんてないよ!ほら見て、長屋ばかりだろ?」 え。と声を漏らして血の気が引いていくのを感じた。 な、長屋? ちょっと待ってください。と告げて眉間に手を当てて考える。 まって。まって。一回整理しよう。 さっきまで俺何してた? 店を開けて、暇だったから気まぐれに掃除して、疲れたから飲み物買いに行こうとして、そこで懐中時計が壊れてたから修理しようとして…。懐中時計が、壊れた? 「あーーーーー!!」 そうだ!懐中時計!部品散らばしたままじゃないか! 急に大声を出したことで、男がびくりと肩を動かす。 「ちょちょちょ、どうしたの?さっきから君、大丈夫?」 「俺、時計屋やってるんですけど!修理しようとした懐中時計の部品全部散らばしたままで!やばい!早く帰らないと!」 今日の出来事を思い出して焦っていると、男が隣ではは、と笑う。 「懐中時計なら、首から下げてるじゃないか。」 「え?」 指を差された方を見ると、確かに俺が部品をばら撒いたはずの懐中時計が首にかかっている。 「えぇ?!なんで?!」 時計を確認するが、しっかりと動いている。 外したはずの裏蓋もちゃんと閉まっていた。 「君、道端で蹲み込んでたし、頭でも打ったの?大丈夫?」 くくく、と笑いが抑え切れてない状態で話す男は、ダメだと言わんばかりにあはははっ、と大きく笑った。 「とりあえず、今日はうちに来なよ。落ち着いてから考えよう。」

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