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1930年

「お邪魔しまーす…。」 案内されて着いたのは、木が剥き出しの木造の建物だった。 上り框に足をかけるとギシギシと木が軋む音が聞こえ、今にも抜けてしまうんじゃないかとビビりながら上がる。 男は建て付けの悪い扉を開けて、奥へと進む。 「ごめんねー。狭くて。あ、その辺適当に座ってもらっていいから。」 懐かしいような木の匂い、畳、ちゃぶ台にお櫃、洗濯板にタライ……? さっきから感じていたが、服装や街並みが現代とは明らかに違う。だが彼の家に入って確信した。恐らく、ここは俺の元いた時代じゃない。 「さて、自己紹介からしておこうかね。俺は北山倫太郎(りんたろう)。君は?」 「神村尋斗(ひろと)です。あの、先に一つ聞いていいですか?」 「どうぞ?」 「今の、西暦を教えてください。」 どっどっ、と心拍音が早まる。 多分。いや確実に俺の予想は____ 「西暦?1930年だけど。」 当たり。じゃない!そうじゃない! なんで!?これが俗に言うタイムスリップっていうやつ?! 「西暦なんて聞いてどうすんのさ。まさか未来から来ましたー。なんて言うのかい?」 倫太郎はまた、笑いを含んだ言い方で俺に問いかける。 「いや、まあ……信じてもらえないかもしれないけど…。」 「え!本当に!?あははははっ!」 面白い子。と言いながら大きく笑う倫太郎に、本当なんだって!と必死に伝える。 「えー、まあ確かにそうだったら面白いなぁと思って言ってみたけどさぁ。」 「俺だってびっくりだよこんなの!気付いたら全然知らないところにいるんだから!」 「へえ?」 倫太郎はちゃぶ台に右肘で頬杖をついて胡座をかいた。 じゃあ尋斗のことを先に教えてもらおうかな。と言ってからいくつか質問をはじめた。 「尋斗がいた西暦は?」 「2020年。」 「へえ、90年後か。2020年はどんな暮らし?」 「どんな?そうだな…。そこの洗濯板は洗濯機に変わってるし、畳じゃなくてフローリングが普通だし……、あ!あとこれ!スマホ!」 そうだ。と思い出したスマホをポケットから取り出して倫太郎に見せる。 「へえー!これはどんな風に使うんだ?」 「今は電源がつかないけど、これがあれば連絡はすぐ取れるし、ゲームやテレビも見れる。お金も稼げるし、あとご飯注文したら家まで届けてくれる。」 「それは……素晴らしいな……。」 キラキラと輝く眼差しでスマホを見つめる倫太郎に、俺が発明したわけでもないのに、得意げにふんぞり返る。 「尋斗は面白いな!そんな夢のような物まで即興で思いつくとは!」 「いや!本当なんだって!」

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