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第7話

 月が出ている。  食事を摂ることも、ディーグへの言葉も無いまま、夜は更けた。  明日も、狩りの予定が入っていた。  騎士の証を受け入れ、ひと月が過ぎようとしていた。  狩りという、殺戮に身を投じたものの、一向に慣れることがなかった。  目を瞑れば、恨みと呪詛を吐きながら絶命していくその姿が代わる代わるエィウルスの脳裏に現れた。  まだ、その手が血にまみれているような気がしていた。  その手を握り、目を瞑った。  ふと、ひやりとしたものが握った手に触れた。 「?」  目を開けば、黒髪を垂らした、騎士団の主、レグニスがそこにいた。 「手が、どうかしたのか」  小さな唇が問いかける。 「いや、…なんでもない」  深い青の双眸が、エィウルスを真っ直ぐに見ていた。それに全てを見透かされているような感覚が、エィウルスの心臓を掴んだ。  触れてみたいと、ふとエィウルスは思った。  この手に触れている指は、まことか。作り物ではないのか、そう疑わざるを得なかった。  ただ、美しい。  見れば、見るほどに、この口が、あの惨劇を望んでいるのかと、確かめたくなるのはなぜか。 「狩りは慣れたか」  レグニスの問いに、エィウルスは首を振った。 「そうか」 「なぜ、狩るんだ」  エィウルスの問いに、レグニスは、目を少しばかり見開き、驚いた顔を見せた。 「なぜ」  「そんな問いを返されたのは初めてだ」  お前だけだよ、そう言ってレグニスは微笑んだ。  エィウルスは、その横顔を見つめた。 「私はいくつに見える」  首を傾げ、レグニスはエィウルスに問いかけた。 「…さぁ?」  多く見積もっても十六、七。ぐらいかとエィウルスは考えていた。 「こう見えて、人間では初老と呼ばれる歳でね」 「…は?」  目を見開いて驚きを隠さないエィウルスの顔を見て、レグニスは吹き出す。 「そんなに驚くことか?お前は、正直な奴だな。面白い」  言って、袖を捲り上げた。 「見ろ。白い肌、まるで筋肉のない少女のような手足。そして顔。だが、こんな私には双子の兄がいてね。あやつは立派に成長をし、吸血も始まり、やがて王になった」 「吸血?」 「そうだ。話を聞かなかったか?人間を飼い慣らし、その血を糧とする輩だ。その王は、私の兄だ」 「じゃあ、あんたも血を飲むのか」 「…そんなに真っ直ぐに聞いてくる奴はいなかった。…少し、驚いたよ」 「…悪い」 「謝ることはない。そうだ。私も血を欲するよ。こればかりは…例外は無かったようだ」  沈黙の中、見つめる瞳が金に染まっていく。 「あんたの目…綺麗だな」 「これは吸血の際にしか現れない色だよ」 「血が、…欲しいのか?」 「無粋なことを」  レグニスはエィウルスの首に腕を回す。  そのまま、唇を重ねた。  レグニスの舌が、エィウルスの舌を招くように咥内を擽る。やがて絡め取られたエィウルスに、レグニスは歯を立てた。 「…っ」  痛みと、レグニスの行為に驚いたエィウルスは唇を離した。唾液と共に、紅いエィウルスの血が互いの唇を染めていることに気付く。  レグニスは、唇を離したことを咎める事無く、微笑を浮かべ、小さな舌で唇を舐めた。その意味を知ったエィウルスは再びレグニスに口付けた。  深く口付けた後、レグニスが唇を離した。 「…さっきの問いの答えが知りたいか」 「…どちらでも構わない。俺は、あんたの飼い犬なのだから」 「飼い犬が噛み付くか」 「噛み付くこともあるだろう」

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