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第17話
護れなかった。
母も、己さえも。あまりにも無力な。
ただの子犬に過ぎない。
だが、今度は違う。守ってみせる。
エィウルス。
お前を。
次々に部屋へと押し入る男達の首を落とし、頭を失った大柄な身体をまとめて廊下へと押し戻す。
廊下へ出れば、気圧された男達が一歩、一歩と退く。
「お前たちの主は死んだ…次に殺られたい奴は相手してやる。まとめてでもいい、かかって来い」
ディーグが歩みを進める度、廊下の男達は譲るように道を開いた。
結局は主さえ死ねば、行き先を失い、男達は露頭に迷うのだ。
それは己も同じ。
だが、迷いよりも、後悔が怒りに火に油を注ぐ。
「どこにいる…!エィウルス…!」
駆け出していた。
どれが吸血で、どれが騎士団の連中なのか構わなかった。
刃を向けるものは斬った。
不意に、足並の違う音がした。
四つ足の、凄まじい疾さで駆け抜けて来る。
鼓膜に響くほどの小さな振動は、やがて音となり、姿を現せた。
銀の狼。
「エィウルス…!」
群青のはずの瞳は、紅色が斑に渦巻いている。
どれほどの吸血の血を奪ったのか、想像すらばかばかしい。
「元の姿に戻れなんて、通じるワケがないよな…」
唸りを上げるエィウルスに、切先を向ける。
「こいよ。エィウルス。勝負しようじゃねぇか」
二つの心の臓。
神の姿とは、獣のことか。
それとも。
「どちらかを選べなんて、今の俺達にぴったりじゃねえか」
ディーグは笑ったつもりだった。
「来い」
エィウルスの爪が、地面を蹴る。
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