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エロシーンサンプル①
「條、なにそれ」
頬を上気させて風呂場から戻ってきた空はソファに座ってぼうっとバラエティ番組を眺めていたこちらの手元を覗き込んだ。
眼鏡をかけていないからか少しだけ見辛そうに目を細め、眉間に皴が寄っている。
くしゃくしゃの眉間を思わず人差し指でぐいと押した。
あ、戻った。
「ハーゲンダッツ。冷凍庫にもう一個あるぞ」
「やった。なんかお祝い事?」
「なんか食いたかったから買った」
「はは、素直でよろしい」
ハーゲンダッツを取り出してきた彼はローテーブルの上に放置されていた眼鏡を装着し、鼻歌交じりに蓋を取った。
「ん、甘」
「そりゃアイスだからな」
「そっち何味?」
「キャラメルマキアート? みたいなやつ」
「甘そ。一口ちょーだい」
「ほらよ」
半分ぐらい残っているアイスを一口掬って、彼の目の前に差し出す。
開いた口の端から見える歯は自分とは違って鋭く尖ってはいない。
アイスを数度味わうように口を動かしていた空は改めて、甘っ、と零す。
「こっちのも食べる? ほい」
差し出されるままプラスチックのスプーンを口に含む。
噛み砕いてしまわない様、慎重に。
「美味しい?」
「ん」
その時だった。
何となく流しているだけだったテレビから、どこかで聞いたことのある曲が流れだす。
思わず画面に視線を向けると幼い頃に見ていた子供向けアニメが放送されていた。
左上に映し出された「再放送」の文字と荒い作画、余っている画面の幅に時代を感じる。
「うっわ、懐かしい。これよく一緒に見てたよね」
そういえばそうだった。
半端ものだと馬鹿にする奴らばかりだった空間の中で、こいつだけが種族ではなく俺自身を見て、隣にいてくれて、同じ景色を見てくれていた。
目を見て、手を握って、話をしてくれた。
「ああ」
だけど人間のコミュニティというのは難儀なもので、何か一つ共通の敵を作ったうえで築かれた絆は皮肉にもとてつもなく硬い。
それがたとえ生徒や先生、学校中から慕われている秀才の出雲空であったとしても、その共通の敵を同じく敵と認識していないと知られてしまったのなら迫害の対象になってしまう可能性は十二分にあった。
だから、俺は。
「? どうした、真剣な顔して」
視線を感じて画面から目を離す。
目が合うと同時に指の間に温度が滑り込んできて、まるで逃がすまいとでも言うように、ぎゅうと握られた。
「昔の事、思い出してたんだ」
互いの鼻先が触れてしまいそうなほどに近付く。
心臓の音まで聞こえてしまいそうな距離。
懐かしい音と、絡み合う視線だけが五感を支配した。
「そんな顔しなくても、俺はもうお前から逃げない。だから安心しろ」
「わかってる……戻ってきてくれてありがとう、條」
「当時のお前のへなちょこパンチ、随分効いたからな」
「それは何より」
弱いくせに、力なんてないくせに、こいつはこうやって時々、力強く笑うんだ。
そうやって迫害されていた俺のことも、荒れていた俺のことも、連れ戻そうとしてくれた。
「ん、」
絡み合った指先に、互いを握り合う手に、もっと多くを求めるようにと自然に力が入っていく。
どちらともなく触れた唇は吐き気がするほど甘ったるくて、癖になってしまいそうだ。
いつ彼の肩を押してマウントを取ってしまおうかと機会を伺っていると、ぐるんと視界が反転した。
ぺろり、と口元を舐めた空はにんまりと口角を上げ、楽しそうに笑う。
白い光を背中に浴び、影が下りた優し気なタレ目が意地悪く細められるその瞬間が、堪らなく好きだ。
好き、なのだけれど。
「……今の流れは逆だったろ」
納得がいかない。
こちとら夕飯の時からずっとお預けをくらってるんだ。
今更大人しく抱かれるなんて出来そうにない。
「それはそれ、これはこれ」
「通用するか! お前いっつもムードがどうちゃらとか文句言うだろうが!」
「えー? 知らないよ、僕そんなこと言わないし」
「言ってんだよ! おいどけっ……ちょ、おい、やめろ固めんな固めんな! 痛てててててッ」
数分の格闘の末に俺が10カウントを取られ(器用なことにウエイトがなくても何とかなる寝技を使ってきやがった。いつ覚えたんだこいつ)、節々が痛むなか今日は大人しく組み敷かれてやることにした。
というか頷く他なかった。
関節を外されるのだけは遠慮したい。
あれめっちゃ痛いんだよ。
「さて。前座はこの辺にして」
「お前途中から楽しんでただろ……」
「何のことかな」
「ッのやろ……覚えとけよ」
「はい脱いでくださーい」
「だからもっと雰囲気どうにかしろっつーの!」
上をひん剥かれ、殆どレイプに近い状態で無情にもそれは開始される。
「ったく、お前は昔っからそうだ……」
指先が頬から首筋を通って胸元を掠った。
ぞわりとくすぐったさが背筋を上がってくる。
「優しそうな顔して、俺には随分勝手するじゃねえか」
彼の柔らかい肌の感触が頬を滑って、何やら楽しそうな空と目が合った。
それから数十分。
何故か俺はひたすら乳首をこねくり回されていた。
今日はそういう気分なのかとしばらく我慢していたけれど、もうそろそろ限界だ。
乳首ヒリヒリしてきた。
「空。楽しいか、それ」
「うーん。ぼちぼち」
「じゃあやめろ。俺の乳首が取れたらどうすんだ」
ネチネチネチネチ乳首ばっかり弄りやがって。
「ちぇ。今日もダメかー」
「俺はそこはなんともないんだよ。諦めろ」
「気持ちいいのに」
「それはお前だけだ」
「流石にもっと人口いると思うけどね。そっかダメかあ……寝てる間も弄り続けてるんだけどなあ」
「お前そんなことしてたんか」
通りでやたら最近朝起きたとき乳首がヒリヒリすると思った。
あと数日この症状が続いたら恥を忍んで病院に駆け込もうと思っていた……危ない危ない。
「しょうがねえだろ、人には向き不向きってもんがあるんだよ」
「この場合は多分使い方違うと思うけどまあいいや」
不満そうに唇を尖らせる空。
かと思ったら、乳首を諦めたその手はゆっくりと下がっていき、太腿の内側を撫でる。
「んッ、」
思わず声が漏れた瞬間、また楽しそうに空の口角がにんまりと上がった。
「條、下弱いよね」
「大体の生き物がっ、そう、だろ……っが、んんッ」
空の手の平が腿を往復する。
内腿から外腿、外腿から脛、脹脛……撫でられるだけで腰が浮いて声が漏れそうになった。
こいつの触り方も悪い。
じっくりと焦らすように触れるか触れないかの位置を保ったままあちこちへ行ったり来たりするのだから、堪ったものではない。
特に、
「ッひ……!」
尻尾の付け根。
つまりは、臀部。
恥ずかしい限りだがここが一番クる。
それをわかったうえで空は、すぐ近くまで指先を走らせては離すを繰り返してなかなか触れてくれない。
意地の悪いやつだ。
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